異業種コンテンツに飛び込む武器「パイロット」の可能性
映画や番組の制作前に試験的につくられる短い映像「パイロットフィルム」をご存じでしょうか。名作映画から最新作まで、そうした貴重な映像を集めた映画祭「渋谷パイロットフィルムフェスティバル」が、2024年12月に開催されました。発起人を務めたのは、Whateverの川村真司さんと、CHOCOLATEの栗林和明さん。
青山デザイン会議
人工知能(AI)の活用領域が増加しています。最近では技術の進化が目覚ましく、医療分野における治療の診断、栄養の観点から組み合わせた料理のレシピ提案、車の自動運転、小説や脚本、芸術作品を創作する取り組みも盛んに行われています。はこだて未来大学では、人工知能に小説家の約1000作品を学ばせて短編小説を創作し、文学賞の一次審査を通過したことを明らかにしました。そのほか、ゲームデザイン、ニュース記事の自動作成などコンピューターにも“感性”が扱え、良質のエンターテインメントを創作できる環境が整いつつあります。では、広告はどうでしょうか?将来、クリエイティビティや知性がコンピューターに取って代わられる時代が到来するのであれば、クリエイターは何を武器にすればよいのでしょうか。また、人工知能とどう共存すればよいのでしょうか。人工知能を研究する千葉大学の阿部明典教授、Pepperプロジェクトに参画するテクニカルディレクターの長井健一さん、そしてクリエイティブディレクターの福部明浩さんと話し合います。
長井▶ マッキャンエリクソンにAIのクリエイティブディレクターが就任したことが話題になっていましたね。過去10年分の優れたCMを構造分解し、独自にタグ付けすることができるようです。
福部▶ 単に話題を狙った広告かと思っていました。実際のところAIにクリエイティブディレクターの機能を持たせることができるのでしょうか?
阿部▶ ウケをよくするにはこうした方がいい程度の導きはできると思います。例えば、ある画家がコンピュータに自分の絵の描き方をアルゴリズムとしてプログラムして、プロッターのようなもので絵を描かせたら、オークションで売れたそうです※1(※1 芸術家であり、カリフォルニア大学サンディエゴ校教授のハロルド・コーエンさんが開発したコンピューター画家「アーロン」。)。厖大な優れたCMのデータにタグ付けなどして、学習させれば、ウケるパターンやトレンド、作風が出てくると思います。
福部▶ 作風にひねりを入れることもAIにできるのでしょうか?
阿部▶ そこは人の手が介在すると思います。現在のところAIには審美眼がありません。作風を変えるのも、AIがアイデアを何例も出して、よしあしは人が判断することになると思います。
長井▶ でもアイデア出しは助かりますよね。一気に何十案も出てくるわけですから。スピードが求められる仕事には向いています。
福部▶ それって新人がやらされるようなことですよね。ますます新人が育たなくなりそう(笑)。僕が一番聞きたかったのは、AIが作るオリジナルに似たものとコピペとの違いです。そこの線引きはどうなっているのでしょうか?
阿部▶ ユーミンが書きそうな歌詞をAIに作らせた時は、「中央フリーウェイ」などの歌詞を分解して、フレーズを集め、それをもとに新たな詞を(半)自動的に作っていました。歌詞を読んだ人はユーミンが書いたと錯覚していました。
福部▶ そこなんですよ。本物のユーミンは「中央フリーウェイ」という言葉を2度も使わない気がするんです。
阿部▶ そのシステムは「○○さんが使いそうな言葉」を用いることで、なんとなくそう匂わせているような感じでした。私は、間テキスト性※2(※2 あらゆる文学はそれまでに作られた文学作品の断片の組み合わせから成り立つという考え。)の考えに基づいて、百人一首を分解して組み直してみたことがあるのですが、なかなかいい歌ができました。
福部▶ スタジオジブリから新作映画が公開される時に、僕らはジブリらしさを求めると同時に新機軸も求めます。この2つの割合を変えて、それらしい面白さが作れたらすごいですよね。
阿部▶ 何千作もAIに作らせれば、一つぐらいは出るかもしれません。
福部▶ でも、最終的に面白いと判断するのは人ですよね?
阿部▶ そうです。だから、僕ら研究者が優先すべきは、AIが「面白い」という感覚を理解できる仕組みを作ることです。
福部▶ そこが根幹ですよね。クリエイティブディレクターは面白いかどうかを判断する役割ですから。
長井▶ ハリウッド映画ではAIを導入し、脚本を作らせているようですし、日本でも作家の故・星新一さんの短編をつくるプロジェクトが話題になっていましたね。
福部▶ だからかな?HuluやNETFLIXのドラマの展開が全部似ていると感じるのは。結局、面白くなるかどうかが一番の問題です。人間が考えつかないような角度から面白いものができるのなら最高ですけどね。
阿部▶ 小説はある程度できると思います。ただし、死んだ人が生き返っていないか?など筋が通っているかどうかのチェックが必要になります。
福部▶ AIが書いた無数の小説をチェックするのが大変そう。面白いと思う言い回しを拾っていくことはできますか?
阿部▶ できます。
福部▶ 脚本はどうですか?
阿部▶ 小説よりも制約が多いので作りやすいです。小説の場合は、あらすじはできますが、言い回しや言葉の響きの美しさまで求められると、かなり難しくなります。
長井▶ 脚本はクリエイティブディレクションに似ていますよね。大筋を決めて、面白いポイントを決めてあげるという点で。
福部▶ 制約があるほどやりやすいなら、広告は商品をよく見せなければならないとか、特定のタレントを起用させなければならないなどの制約が多いので、もっとやりやすいかもしれない。面白いと面白くないは何が違うんだろう?例えば、ソフトバンクのお父さんが犬、auは昔話の主人公たちが家族や友だち、そういうズレをAIに学習させて創造させることはできそうですか?
長井▶ ド直球な質問ですね(笑)。
福部▶ ソフトバンクもauも一時代を築いているから、NTTドコモもそれをやらなければと考えた時に、どういうことができるのかなと思って。
阿部▶ 広告会社やクリエイターが狙うのはマーケティングや流行の隙間ですよね。AIがそこを狙うように学習できれば、可能性は広がっていくと思います。
福部▶ 結局、案はいくつでも出せるけど、ジャッジは今のところ難しい、ということですね。
長井▶ AIがジャッジしだしたら怖くないですか?SFの恐怖映画みたいになりそう。
福部▶ 今日の会議で一番面白い帰着は「クリエイターの仕事はAIにとって代わられます。1年半後にね」みたいな結論だと思うんですが、もう少し先のようですね。
小倉百人一首をもとにした和歌の生成
(1)小倉百人一首を(5,7,5,7,7を保ったまま)ばらばらにして、(乱数、最初の文字のあいうえお昇順、降順などで)単純に組み合わせを変えた結果得られた歌(季節などの制約は一切入れていない)。何となく“和歌”らしきことばになっている。
(2)百人一首全てを連結して、漢字込みで4文字に分け、それを133の歌らしきものにして、再構成してできあがったことば。刺戟的な日本語の“作品”となった。カットアップともいえるかも知れない。[コンピュータと感性(Ⅲ)、人工知能学会研究会資料]2005年
B級機関
NTT在籍時代所属していたグループ(リーダー:松澤和光(現神奈川大学))で制作に関わったもの。ことば工学のコンセプト(芸術と工学を結ぶ)をシンボルするものとして制作された一種の「美術品」。中身は、computational humourの観点から駄洒落を出すもの。「腐ってもタイソン」のような駄洒落が出された。ネーミングは、永久機関になりきれないというところから。
長井▶ 今はロボットと会話する研究が盛んですね。Pepperの開発は当社や多くの会社がさまざまなアプローチでロボット開発に取り組んでいますが、もしも汎用的なAIが開発されたら、仕事がなくなるのではないかと、漠然とした不安を抱くこともあります。
福部▶ ロボットの開発者として、ですか?
長井▶ そうですね。さまざまな産業で失業者が増えるのではないでしょうか。
福部▶ それは刺激的な話ですね。例えばこういうこともできるのでしょうか ...