キャリアアップナビでは、マーケティングやクリエイティブ職のキャリアアップについて、毎月テーマをピックアップして解説します。今回は、世界自然保護基金ジャパンでブランドコミュニケーション室室長を務める渡辺友則さんにこれまでのキャリアについて伺いました。良い転職は、良質な情報を入手することから始まります。「こんなはずではなかったのに⋯」とならないための、転職情報をお届けします!
Q.コミュニケーション学を専攻していたそうですね。
私は高校生のころから、環境や貧困などの社会問題に関心がありました。熱心に報道番組を録画したり、気になる新聞記事をスクラップしたりしていましたね。世界の諸問題について深く学びたいと考え、埼玉大学の教養学部に入りました。広く学べる学部だったので、国際関係学に加えてコミュニケーション学を専攻。コミュニケーションの意義や手法を学ぶうちに、社会問題解決の手がかりのひとつに、世の中の人たちに「伝える」工夫があるのではないかと考えるようになりました。
そんな思いもあり、コミュニケーション戦略を演習形式で学ぶゼミに入りました。題材はアメリカ大統領選挙です。授業では、二大政党それぞれの党首を立てて模擬選挙を実施。ターゲットを設定してメディアを選び、メッセージや表現を綿密に考えるというものでした。面白くて、夢中になっていたので、大学院への進学も考えましたが、指導教員から「実践こそ生きた教材」と、就職を勧められました。
Q.学んだことを実践できる就職先を探したのですか?
そうです。卒業後はアサツー・ディ・ケイ(現・ADKホールディングス)に入社しました。志望はコピーライター。ゼミで広告をつくったとき、面白い職種だなと思ったからです。自費で講座にも通いました。コピーライターはセンスで勝負するイメージでしたが、実は違う。会社や商品の背景を調べてコンセプトを考え、最適なメッセージを最適な手段で発信する。研究と努力によって言葉を生み出しているんですよね。
でも、入社後すぐにはコピーライターになれませんでした。最初は広報としてプレスリリースを山のように書いていましたし、その後もスポーツイベントやプレゼントキャンペーンの企画から、駅前サンプリングまで、いろんなことをやりました。その後、転局試験に合格し、コピーライターになれたのは入社してから5年以上経ってのこと。それから5年ほど、コピーライター、CMプランナーとして働きました。
Q.セーブ・ザ・チルドレンに転職したきっかけは?
実は、新卒の就活でもNGOを志望していました。社会課題の解決に貢献したかったからです。しかし、募集はどこも経験者採用ばかり。そこで方向転換し、広告会社で実績を積むことにしたのです。10年勤めたので、さすがにもう即戦力として見てもらえるだろうと、満を持してNGOへの転職を決意。コミュニケーションのプロを求めていた、子ども支援のNGO、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンに入職しました。
入ってみると、想定外の壁がありました。スキルを活かそうにも、予算も人手も足りない。NGOに入って「さあ、いよいよ世界の問題解決に貢献できる」と意気込んでいたので、目からうろこが落ちる思いでした。社会変革と口で言うのは簡単ですが、戦略や戦術だけでは実行すらできない。組織のガバナンスを強化して、組織や財政の基盤を安定させることが重要だと学びました。
それからは、個人・法人からの資金調達を推進し、組織が継続的に成長する仕組みづくりに注力しました。在籍した7年間で4~5倍にまで事業規模が拡大。人材も増やして、東日本大震災後の子どもたちへの緊急支援など、インパクトある施策を実現できたと思います。
Q.NGOの仕事に広告の経験は活きていますか?
2015年に現職の環境保全団体・世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)に入りました。最初は前職と同じく、資金調達による事業拡大を担当。その後、広報専門の部署であるブランドコミュニケーション室を立ち上げました。現在は室長として、環境問題への関心喚起のための広報活動に注力しています。
WWFの使命は地球環境の保全です。それには、社会の意識と行動を変える、クリエイティブなコミュニケーション戦略が必要です。
例えば、チームメンバーが考えてくれた「脱炭素列島」というキャンペーン。脱炭素が叫ばれる世の中で、身近な故郷や住んでいる街から変えようと働きかけるため、47都道府県が脱炭素について掲げている目標の高さをランキング化し、地図の形でパッと見えるようにしました。
「なまらいいんでないかい」「ばりすごい」「ぶち不十分じゃ」と各地の方言を組み込みながら、難しい話をポップに伝えています。自治体担当者さまとの対話や、担当者が知りたい各地域の計画や工夫も事例として集めるなど、実際の変容につながる素敵な取り組みとなりました。
このようなコミュニケーション戦略を立案する際には、引き出しの多さが求められます。そして、自分の引き出しを増やすことにつながったのが広告業界での10年間の経験です。あのとき広告会社に入ったもののすぐにはコピーライターになれなかった挫折は、網羅的な経験を積むための必然だったのだと思います。これまでの知見すべてが、これから取り組む社会変革の糧になる。「あの10年間は必要な回り道だった」と、いまは考えています。
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