あらゆる業種やシチュエーションにおいて「ダイバーシティ(多様性)」が大事だと言われる時代。広告における「多様性」とは何を指しているのか。ファッション界の2つの事例から、平岩壮悟氏が考えを語る。
過去最高数の「いいね」を記録 グッチがダウン症のモデルを起用
2020年、グッチのInstagram投稿が大きな話題を呼びました。ダウン症のモデル、エリー・ゴールドスタインが起用された、そのマスカラ「L'Obscur」の広告は、Instagramにて同ブランド史上最も多い「いいね」を獲得しました(2020年9月の時点で86,000以上、現在の数字は非公開)。
このキャンペーンで一躍注目を集めたのが、エリーが所属する「ゼベディ・マネジメント(Zebedee Management)」でした。これまでメディアや広告でほとんど起用されることのなかった障がい者やオルタナティブ・アピアランス(アルビノや母斑、白斑を含む)のモデルたちが数多く所属している英国のタレント事務所です。
ゼベディ・マネジメントのWebサイトには、「障がい者はダイバーシティの議論から取り残されがちです」と書かれたステートメントが掲げられています。「“ダイバーシティ”を求める企画書はよく受け取りますが、障がい者やオルタナティブ・アピアランス、トランスジェンダー、ノンバイナリーについて触れているものは皆無です。“真に”多様性のあるメディアが当たり前になることが、私たちの望みです」。
2017年、ふたりの女性によって立ち上げられたこのタレント事務所は創業から数年足らずでメルセデス・ベンツやアップル、ナイキといった多くの大手企業をクライアントに抱えるまでに急成長を遂げました。
では、件の広告はどのように実現したのでしょうか。キーパーソンは写真家のデイヴィッド・PD・ハイドです。
2019年11月に開催された「PhotoVogue Festival」の一環として「Gucci Beauty」と「Vogue Italia」が始めたInstagramのスカウト企画で、彼はキャンペーンのモデルを探しました。その際指針にしたのは、グッチのクリエイティブ・ディレクター、アレッサンドロ・ミケーレの「L'Obscurのマスカラは、メイクアップを使って自由の物語を自分らしいやり方で語ることのできる人のためにデザインしました」という言葉だったと言います。そこで見出されたモデルのひとりがエリーでした。
エリーは老舗メゾンによる起用の重要性について、次のように述べています。
「人前に出ること(リプレゼンテーション)はわたしにとってとても重要なことです。障がいが...