ESG/SDGs経営やESG投資は今や世界的な常識になりつつありますが、日本企業の取り組みに対する評価は相対的に高いとは言えません。取り組みをしていないわけではなく、コミュニケーション部分にも問題があるのではないか。そんな観点からESG/SDGs経営に精通する2名が、日本企業の取り組み、さらにその発信について考えます。
現状をビジュアライズし 価値ある「実態」をつくっていく
──日本企業におけるESG/SDGs 経営の浸透をどう評価していますか。
吉柳:徐々に浸透しているとは思いますが、国際的な評価は低いのが現状です。何から始めてよいのかわからないという企業が非常に多く、相談が増えています。もともとPR会社の仕事として、社会における課題の設定から企画を始めるケースが多いため、ESG/SDGs経営についても多く、ご相談をいただいています。
谷本:ESG/SDGs経営やESG投資は海外では、もはや当たり前ですが、世界に大きなインパクトを与えたCOVID-19を経たことで、日本企業の経営者の皆さんの課題感も、よりグローバルアジェンダに近づいたと感じます。自分たちの事業を通じて、いかにして世界規模の課題解決に貢献していくか。世界規模の課題を解決するというゴールを設定することで、企業の中にイノベーションを起こせるのではないか、との期待もあってのことだと思います。
吉柳:日本企業の世界的な評価は決して高くはないのが現実です。実際に話を聞いてみると、実はESGやSDGsに寄与する事業にすでに取り組んでいるケースが多いにも関わらず、その打ち出し方がうまくいっていないのではないかとの仮説を持っています。
谷本:企業を取材する中で、ESGやSDGsの本質的な部分に取り組んでいるのは、実は日本企業にとても多い気がしていました。それにもかかわらず、海外の機関投資家などからは、「日本企業はESGやSDGsに取り組んでいない」という声をよく聞きます。吉柳さんが指摘したように、「自分たちが取り組むESGやSDGsの本質部分をきちんと伝えられていない」ことが問題なのではないかと思います。
──日本企業の取り組みはなぜ「伝わらない」のでしょうか。
谷本:言語の問題だけでなく、暗黙知の部分が多い、日本ならではのハイコンテキスト文化も影響していると思います。ESGやSDGsに対する姿勢や取り組みがきちんと言語化され、企業理念や経営課題の中に明言されていないからこそ、一人ひとりが自分ごとに落とし込めていないことが非常に大きいと感じます。
吉柳:以前から、企業のCSR活動を広報が担当する企業は多いですが、整理下手、開示下手、表現下手といった日本企業のESGに関する課題感を踏まえると、広報が経営企画に近い機能を備える必要性の高まりを感じます。あとは、ESGの格付け機関がまだ海外にしかない点にも問題があるのではないでしょうか。
現状は1年に1回、海外にある格付け機関で取り組みの評価がされ、ESGインデックスに組み入れられるかどうかが決まる。現在、日本の上場企業のうちAAA評価の企業は、わずか14社で0.3%にとどまります。ただしこの評価は、SDGsに関する取り組みについて、統合報告書という形で企業が毎年情報開示していなければ、そもそも評価の対象になることもできません。開示や表現に多くの課題がある日本企業にとってみれば、海外の評価軸だけで判断されるのは不利といえます。
──多くの日本企業が抱える課題を解決するには何が必要でしょうか。
谷本:経営者の方たちに話を伺っていると、「バックキャスティングできるかどうか」が、海外勢との大きな違いと感じます。SDGsのように2030年に向けた世界的な目標があっても、「2030年の未来をどう描いていますか」と問われて、具体的に答えられる日本企業のトップはほとんどいません。
日本の場合、長期の計画といっても、5カ年計画くらいに収まるケースが多いのではないでしょうか。けれども、リーダーに限らず、会社全体で「2030年の未来に向かってどういった社会をつくっていくべきか」、「その未来の実現のために自分たちがどう寄与していくのか」について、きちんとビジュアライズしていくことが、まず大前提として必要ではないでしょうか。言語化や数値化してみることで、企業で働くみなさんの多くが具体的な行動に落とし込んでいけるはずですから。
吉柳:まさに、おっしゃる通りです。そうした背景を踏まえて私たちは産学連携でプロジェクトを進めてきましたが、まもなく日本初のESG格付け機関を設立予定です。具体的には、九州大学およびRefinitiv社と共同で開発したESGのスコアリングを活用しながら、私たちが得意とするPRの「ステークホルダーリレーション」の技術を応用する、「ESGスコア×PR」の事業を推進しています。
私たちが開発したESGスコアは、開示情報をスコアリングのシステムに投げ込むと、開示内容によって各項目の点数が出て、総合点が算出されます。数値化されることで自社の強みや弱みがわかるので、どの取り組みを強化していくか、改善していくか、あるいはそもそも何から始めるべきか、そういったことが中長期的な視点で見えてきます。
──ESG/SDGs経営やESG投資にもPRの視点は重要なのでしょうか。
吉柳:きちんと「実態をつくる」。その上で、コミュニケーションをしていくというプロセスはPRとまったく同じです。加えて世界的に皆で課題を解決していこうという流れが出てきたおかげで、ステークホルダーとの関係性を構築するパブリックリレーションズ活動が、企業価値の向上にわかりやすくつながるようになってきています。
私たちはこれまでもPR会社でありながら、フードロスの食品の納品先やバイオプラントなど、社会課題を解決するさまざまなパートナーを開拓してきました。これは企業側の「実態をつくる」をサポートする上で、必要となる活動だからです。
これまで数々のコラボレーションをお手伝いしてきましたが、企業と企業をつないで社会課題を解決する取り組みも進めています。多様なパートナーシップをリードして実態をつくったり、機運を高めていくことも、私たちならではの強み。日本企業の価値ある取り組みを、ステークホルダーに伝わるコミュニケーションとして提供することで、日本企業のESG/SDGs経営やESG投資を力強くサポートできると考えています。
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