企業のコミュニケーション活動における制限という環境は東日本大震災後との比較も見受けられる、新型コロナウイルス禍。当時と比べ、企業と消費者をとりまくメディア環境はどのように変化したのか。そして、今だからこそできる企業のコミュニケーションとは?法政大学 教授の藤代裕之氏が解説する。
消えた軟式アカウントと新たな危機管理の必要性
大規模災害はメディアやコミュニケーションの転換点となります。コロナウイルスの感染拡大により、企業と消費者を結びつけてきたメディア環境も変化しており、企業には対応が求められています。例えば、東日本大震災はソーシャルメディアが社会に浸透するきっかけになりました。
ソーシャルメディアの登場により企業と消費者の関係は劇的に変化しました。新聞記事やテレビCMなどと異なり、直接かつ双方向のコミュニケーションが可能になったのです。いち早く目をつけたのはIT企業の経営者たちで、堀江貴文さんら経営者のブログが話題となりました。企業なのにゆるいコミュニケーションを行う「軟式アカウント」も話題となりました。代表的なのは冷凍食品のカトキチで、企業アカウントの運用を担当する「中の人」ブームをつくり出しました。しかしながら、これらは社会の一部にすぎませんでした。
ソーシャルメディアは、2011年に起きた東日本大震災で、マスメディアには取り上げられない様々な情報を得る手段として注目されたこと、そしてLINEがサービスを開始したことで、本格的に普及していきます(図表1)。その中で、企業アカウントの立ち位置も変化を迫られることになります。

図表1 主なソーシャルメディアの利用率
スマートフォンの普及とともに、LINEをはじめとしたソーシャルメディアが浸透していった。
総務省「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」から筆者作成
それを象徴したのが、「軟式アカウント」のひとつでNHKの広報を担当していたTwitterアカウント「NHK広報局」をめぐる動きです。東日本大震災が起き、「NHK広報局」は津波への注意を呼びかけるなど非常時モードになりました。その後はゆるさを取り戻していましたが、2013年の3月11日に合わせて「おめでとう!!」とツイートして炎上するなど批判の声が高まります。結局、2016年に10万人を超えていたフォローを解除し、双方向のコミュニケーションを取りやめたのです。
ソーシャルメディアの利用者が増加すると、限られた小さな世界で許された振る舞いは次第に通用しなくなり、「軟式アカウント」の魅力であった個人の顔が見える運用がリスクにもなり得ることが分かってきたのです。また、ソーシャルメディアをいち早く利用し始めた10代、20代の若者たちによるコンビニエンスストアやピザ店で不適切な行動をして投稿する「バイトテロ」が続発し、従業員のソーシャルメディア利用や炎上が起きた際の対応といった危機管理が必要となりました。
多様化が進んだ消費者とつながる方法
ソーシャルメディアの利用が増加すると、インフルエンサーと呼ばれる影響力を持つ消費者が台頭していきます。さらに芸能人が発信を始め、インフルエンサーも多様化していきます。
Twitterでは、松本人志さんや有吉弘行さんなどのお笑いタレント、日本経済新聞や首相官邸のようなニュース系のアカウントがフォロワー数の上位を占めています。Instagramでは、渡辺直美さん、ローラさんなど、モデルや女優が上位を占めているというように、各サービスのカラーの違いも明確になってきました。どちらのサービスでもフォロワー数のトップ100位までに、企業アカウントは数えるほどしかありません。
このような状況は...