可視化や定量化の難しい顧客体験を、マーケターはいかにマネジメントして改善を図っていけばよいのか。花王でデジタルマーケティングの統括経験を持つ、アドビ システムズの石井龍夫氏が解説する。
お客さまにとってブランドは何になれるのか
2001年10月、3カ月前に花王の新規ヘアケア開発プロジェクトの責任者となった私は「新ブランドは、お客さまにとって何になれるのか」という質問を広告作成部門の統括から受けました。その時、私の目の前には日本経済新聞の全面広告がありました。
スターバックスが株式上場日に掲載したその広告は「スターバックスは何になれるのか」という質問から始まり、「コーヒーと一緒に"いい感じの時間"を提供しているんだ!」と熱く語ります。そして、家と仕事場の間、あるいは家と学校の間にある、もうひとつの空間「サードプレイスになる」という答えを提示していました。まさに、スターバックスはコーヒーという「商品」だけではなく「顧客体験」を提供する、という戦略を打ち出したのです。
この「お客さまにとって何になれるのか」という問いかけは、機能価値一辺倒であった、当時の花王の商品開発の姿勢を見直すきっかけとなりました。
そして私は、「ASIENCE」と名付けられたこの新ブランドは、「お客さまにとってハリウッドビューティに代表される画一的な美への憧れではなく、多様化する社会の中で自分本来の"美しさへの自信(Self-confidence)"となる」と定義し、広告や店頭、商品のボトル、液の粘度、香り、泡立ち、サンプル箱などを顧客体験という視点で設計し、市場導入で大成功を納めました …