CXという概念が注目される前から、マーケティング研究においては機能を超えた情緒的な体験価値は重視され、様々な形で研究が続いてきた。その系譜から、いま体験が注目される背景やCX創造のヒントは得られるのか。東京国際大学の平木いくみ教授が解説する。
20年以上にわたる研究の歴史 差別的価値を生む、顧客体験
コモディティ化が進む今日の市場において、企業は顧客体験(CX)を重視することによって、状況を打開すべく様々な取り組みを進めています。技術的水準が一様にレベルアップし、製品やサービスにおける機能面での要求水準が十分に満たされている状況において、ただ顧客の満足を実現するだけでは競争上の優位性を獲得することは極めて困難になっているからです。そこで、自社製品にユニークで差別的な価値を知覚させるために、満足を超えた驚きや感動を引き起こす方法として近年CXがクローズアップされてきます。
こうした考えを顧客との関係性構築の切り口として提唱したのが米コロンビア大学ビジネススクール教授であるバーンド・H・シュミットです。1999年に経験価値マーケティング(CEM)として、五感を軸に経験価値を実現する考え方を提示しました。
さらに、ソーシャルメディアの浸透によって、今や顧客体験をめぐる動きは新しい段階を迎えています。2000年に米ミシガン大学ビジネススクール教授であるC.K.プラハラードとV.ラマスワミは、これまで価値創造の一方的な受容者であった顧客が、企業と共に価値を創造する主体者となる価値共創(co creation of value)という概念を提唱しました。
いずれも、製品自体での差別化が困難な状況においては、顧客の参加によって創出される体験が、他社と差別化を図るうえで有効であることを主張しています …