今月のテーマ:デジタルでブランディングの基本
消費者の日常にデジタルが浸透し、企業にとってはデジタル空間でのブランドの存在感をいかに高めるか、デジタル空間においていかに魅力的なブランド体験を提供できるかが重要な競争軸となってきています。オフラインのチャネルとは異なる、デジタルだからこそのコンテンツづくり、ブランド体験の設計について、最前線で活躍するクリエイターにポイントを聞きました。
- 個々の考えるテクノロジーが、直接消費者にどう結びつくのかまで考える。
- ペルソナを設定し、ターゲットをしっかり見極める。
- 場や情報によって異なる文脈を読み解く。
デジタルでブランディングのここがポイント!
産業の垣根も瓦解させるテクノロジーの威力
近年、新しい施策を行うにしても、手段が増えすぎたあまり、何をしたら良いかわからなくなっている企業が増えているように感じます。実際、私のところに来る相談も、施策以前のコミュニケーション戦略など、より根幹部分の話が多くなっていると感じます。
こうした相談の背景には、企業や産業という垣根がなくなってきていることも理由のひとつだと思います。以前であれば、ある特定の領域・産業の中で、質の良いものをつくっていけば、商売として成り立つ時代が続いていました。しかしテクノロジーの進化もあり、産業や業界の垣根そのものが瓦解しつつあります。
例えば自動車は、これまで自動車メーカーがつくってきて、ある意味不可侵領域でしたが、ここ数年の世の中の流れを見ていると、自動化やAIの浸透によって、自動車メーカー以外も、自動車に代わるモビリティインフラをつくろうとしています。
もしかすると今後、自動車の形自体は変わらなくとも、“人が運転するもの”という意味が変化する可能性もある。意味が変われば、役割も変わってきます。不可侵領域がなくなってきている状況の中で、何を行えば良いかがわからない人が増えているのかもしれません。
つまり、今までであれば消費者に伝わっていた方法を続けても、企業のメッセージが伝わりづらくなっている。この背景には、テクノロジーという領域の進化や変化が、目に見えないながらも進んでいるということがあるのです。
気がついたらテクノロジーによって生まれた新しい仕組みや価値が、人々の意識の流れ方や、変化の仕方を促す場所も変えてしまっていた。そういう状況に少しずつ人々が気づいてきて、何かアクションを起こさなければならないと思い始めたのが、最近なのではないかと思います。
そして気を付けたいのは“テクノロジー”と一言で言っても、それを特定の技術と捉えてしまうと、大局を見誤りかねないということです。
テクノロジーはもはや私たちの日常に溶け込んだ、空気のようにあって当たり前のものになりつつあります。それは生産の場も、現場も、生活者もそうです。つまり、テクノロジーという概念の定義がしにくくなっているのです。酸素が薄いと「呼吸がしづらい」と徐々に苦しく感じます。それと同じで、伝わると思っていたものが「伝わっていない」という状況をなんとなく感じているのが、多くの企業が抱えている課題ではないでしょうか。
そしてテクノロジーが日常に溶け込んでいるということは、“空間”と“テクノロジー”と分けて考えるのが難しくなっているということでもあります。私の専門領域の空間クリエイティブでも、この理解がなくてがうまくいかない問題が起きているように感じます。
「テクノロジーとは何ですか」と問うと、その答えは人によって異なります。しかし、その個々の考えるテクノロジーが、直接消費者にどう結びつくのかまで考えることが重要になります。自分が伝えることが軸であり、テクノロジーはあくまで手段です。自分たちが獲得したい価値にたどり着くために、テクノロジーをどう生かすかを考えなければ、状況を理解できないままにテクノロジーに飲み込まれてしまうと思います。
嘘のないリアリティが魅力空間の持つ属性と強み
空間は興味がある人が集まる場という属性を持っているので、実は一番ハードルの高いメディアでもあります。しかしその分、情報は伝わりやすいし、拡散されやすい。さらに空間という場で体験されることには、嘘がないという強みがあります。なぜなら、自分が実際に体験していることだからです。そうすると、みんなが「良い」と言っている“良い”にはリアリティがあることになります。
さらに人と人が繋がる空間領域においてテクノロジーは有益で、大きな力を持っています。特に今はソーシャルが発展したことで、情報を伝える場が確立されています。
インターネット社会になる前は、情報トラフィックのルート設計が決まっていました。しかし、今はそのルートが多様化してしまったので、あらゆるところから情報が伝わるようになり、どこで情報を掲出すれば伝わるようになるのかがわからなくなってきている側面も見られます。
こうした面からも、濃度の高い人たちが集まり、熱を持ったまま拡散される空間メディアは貴重なのです。まずSNSで話題になることが多い現代の情報トラフィックの流れの中で、情報を埋もれさせないためには、テクノロジーの構造を理解し、有益なものを抽出しなければ、不要なコストがかかってしまう恐れがあります …