今月のテーマ:デジタルでブランディングの基本
消費者の日常にデジタルが浸透し、企業にとってはデジタル空間でのブランドの存在感をいかに高めるか、デジタル空間においていかに魅力的なブランド体験を提供できるかが重要な競争軸となってきています。オフラインのチャネルとは異なる、デジタルだからこそのコンテンツづくり、ブランド体験の設計について、最前線で活躍するクリエイターにポイントを聞きました。
- オンラインとオフラインのメディア特性を見極めて使い分ける。
- オンラインでの映像表現の可能性を広げる要素は「作家性」。
- テレビとは違うオンラインならではの視聴態度に気を配るべし。
デジタルでブランディングのここがポイント!
メディア特性を見極めオンラインとオフラインを回す
ブランディングにおいて従来のマス広告を始めとしたオフラインのチャネルだけでなく、オンラインにおける活動を重視する企業が増えています。特に訴求力の高い、オンラインの動画が普及する中で、オンラインにおけるブランディング活動が一般化しています。
コミュニケーションを考える際には、まずリーチしたいターゲットの特性や、目的によってオンラインとオフラインの役割を分けることが重要になってきています。
例えば、あまりテレビを見ない若年層に対してはオンラインを使おう、という対象年齢別の単純な棲み分けもあれば、マーケティング目的に合わせた使い分けもあります。具体的にはオンラインではSNSの投稿内容や視聴タイミングなどからターゲットをセグメントし、よりパーソナルなコンテンツ内容で出稿を出し分けてピンポイントにリーチさせ、一方のテレビではより広い層での認知獲得を目的としようといった使い分けです。
またブランディングを目的とする場合には、Webでは親近感を、テレビではメジャー感を醸成しよう、とメディア特性に合わせた心情変化を狙うこともあります。オンラインはデータ、メディアに関わる技術が日々進化しているので、例えば動画においても拡散型や行動喚起型など表現手法も多様になってきています。
また、動画を流すメディアによって秒数も6秒から4分以上まで異なり、アングルも縦使いやスクエアなど、さまざまあります。定着の計算幅が広く、フォーマット自体を企画する必要があることもテレビの15秒CMと大きく変わってきています。
さらにオンラインではグローバルでの視聴、あるいは無音視聴まで含めた表現のケアが必要です。興味の誘引力を言語ではなくビジュアルでつくり、また音声でフォローができない分、飽きさせない尺感やカットの構成、ストーリーラインの流れに神経を使うことが多いです。
映像のサムネイルやタイトルが重要になってくるのもオンラインならではで、突然リーチするテレビと違ってWeb映像には「門構え」が必要です。サムネイルとタイトルはいわば"門"。その門の前に立った時にその先に入ってみたくなるか。コンテンツの内容も重要ですが入り口をどうつくるかが鍵を握っていることがテレビをつくる時と大きな違いだと実感しています。
私はオンラインの映像は可能性に溢れていると思っていますが、それだけではコミュニケーションの確立は難しく、テレビのパワーはやはり絶大なので、課題が複雑化している昨今は各メディア特性を見極めてオンラインとオフラインの両輪を回していかないと、数字に結びつくコミュニケーションをつくるのは厳しいと感じています。
ハマる人は猛烈にハマるオンライン 企画は、面ではなく点で考える
オンラインでの映像表現の魅力は多様な価値観に応えられることです。テクノロジーが企画の中心にある斬新な表現もあれば、猫がひたすら可愛いというだけの原始的表現もあります。それぞれの表現における視聴者の「好き」のベクトルは異なっていて、ハマる人は猛烈にハマるし、興味のない人にはまったく見向きもされない。オンラインの映像表現は今後、面から点の視点になっていくと考えています。
企画の視点が「客観→超客観→主観」と変遷していくのではないか、と。数年前の「どうすればバズるのか」と、バズの要素を分析して表現化していた「客観視点」時代から、バズが目的から手段となり、全体コミュニケーションの中でWeb映像はどうあるべきか、とポジションを設計する「超客観視点」時代へと推移しました。
そして、映像の飽和化が加速していくであろう今後は、強い作家性のある表現で濃密なファンをつくって牽引していく「主観視点」時代に変わっていくと感じています。オンラインの自由度を武器に冒険をしていくことが無限にあるオンラインの映像の海の中で光を放つ重要な要素になってくるのだと。
マーケティング戦略から表現を構築する方法論も大切ではありますが、過去の分析に囚われない個々人の強い思い込み、つまり作家性をいかに信じて進んでいけるかが、これからのオンラインでの映像表現の可能性を広げていく要素になると考えています。
デジタルの土壌に作家性というアナログな価値を融和することで、新しい映像の姿が浮かび上がっていく可能性があるのです。濃密なファンを生む映像はオンラインの特性である"アーカイブ"と親和性が高いです。コレクションのような感覚で価値観がフィットする映像コンテンツを一つひとつ楽しむという視聴態度にハマるような表現が求められるように思います。
そして、中長期的にも心を掴み続けるコンテンツ開発の加速が、次の時代のオンラインでの映像表現の可能性を切り開いていくのだと考えています …