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宣伝担当者が知っておきたいクリエイティブの基本

エイチ・アイ・エス「タビジョ」に見る、ファンに「自己表現の場」と「役割」を提供することの効果

エイチ・アイ・エス 丹下陽一郎

テレビCMからソーシャルメディアの投稿まで、消費者との接点が格段に増えたことで、おのずと広告・コンテンツ制作が必要とされる場面も、そのバラエティが広がっています。担当者自らに制作スキルが求められるもの、外部のパートナーのディレクション力が求められるものがありますが、本特集では双方を織り交ぜながら、特にアウトプットの完成度を高める実践的ノウハウ・考え方を解説していきます。

エモーショナル・ブランディングの基本

2000年以降に急速に発展し、ここ数年で再び注目を集めている「センサリー・マーケティング」。感覚刺激で感情面に訴求することで、消費者の行動に影響を及ぼすことができると言われています。企業はブランディングにおいて、五感を刺激する「経験・体験」を通じて消費者をどのように変化させることができるのでしょうか。「左脳」(理性)だけでなく、「右脳」(感情)にアプローチするブランディングについて、現在のデジタル環境も踏まえながら解説します。

    エモーショナル・ブランディングのここがポイント!

  • インスタグラマーの投稿に共感が集まるのは、情報に「リアリティ」があるから。
  • 自己表現の場や役割を与えることで、お客さまとブランドの距離がぐっと縮まる。
  • インスタグラマー自身が良いと思える商品を一緒につくることで、お客さまの心をより強く揺さぶることができる。

旅のきっかけづくりのために旅好き女子の発信が必要だった

エイチ・アイ・エスが2016年3月にスタートした「タビジョ」は、Instagramアカウント「@tabi_jyo」を核に、旅好き女子との接点を持ち、コミュニケーションを通じて関係性を深めながら、旅の魅力を広く発信するプロジェクトです。

旅好き女子との関係は、ハッシュタグ「#タビジョ」つきで投稿いただいた写真・動画を、私たちが公式アカウントで紹介することからスタートします。そして、特にフォロワーから好評の方を「タビジョ公式インスタグラマー」に選定。その方々を中心に、オンライン/オフライン問わずさまざまな活動に参加いただくプログラムになっています。

プロジェクトを始めた理由のひとつには、SNSを通じたコミュニケーションに課題を感じていたことが挙げられます。企業としては2012年からInstagramの公式アカウントを運営してきましたし、TwitterやFacebook、LINEなどその他のSNSもひと通り活用してきました。「ソーシャルメディアは、生活者とブランドとの双方向コミュニケーションの場」とよく言われます。当社もそれを実現したいと考え運用していたのですが、正直なところ、それがなかなか実感できていなかったのです。

もちろん、投稿をすれば一定の反応はいただけていましたが、お客さまからの反応がいい投稿は、例えばボリビアのウユニ塩湖や、南太平洋に浮かぶ水上コテージといった、いわゆる「絶景」の写真が多かったのです。そして寄せられるコメントは、「一生に一度は」「いつかは」行ってみたいというものが大多数。

旅行会社である私たちがSNSを運用する上でのミッションは、旅のきっかけをつくること、旅行需要を喚起することです。このままのSNS活用法では、ミッションを果たすことは難しいと考えました。

旅行会社がWebサイトやパンフレットで紹介する「絶景」の写真は、(当然ではありますが)美しい景色を捉えることを追求していて、そこには人物はほとんど写っていません。ところが、インスタグラマーが投稿する旅先の写真の中で人気を集めているものを見ると、そこは必ずしも「絶景」とは限らない。町中のカフェだったり、道沿いに何気なく並ぶ古い壁だったりして、しかも本人と友だちの姿が写り込んでいるものがほとんどだったのです。

人気のポイントは、インスタグラマーが発信する情報の「リアリティ」。同じ国、同じ場所でも、企業がお勧めするより、お客さまと距離感が近い人がごく主観的にお勧めしたほうがリアルで、そこには強い共感が生まれるのだと思います。

インスタグラマーは、旅行会社のパンフレットには載っていない、パワーのある"旅の素材"をたくさん持っている。旅好き・写真好きのインスタグラマーとつながるプラットフォームを構築して、そうした方々の素材も貸していただきながら、新たな旅のきっかけづくりができないかと考えました。美しいビジュアル自体はどの旅行会社も持っていますから、他社と同じように一方通行の情報発信をしていても差別化できません。

「タビジョ」では、Instagramアカウントを一種の"コミュニティ"に見立て、旅好き女子の皆さんと一緒になって旅を盛り上げていきたい。ですから、公式インスタグラマーを選定する際も、フォロワーの多寡ではなく、「タビジョコミュニティを一緒に盛り上げてくださりそうか」を基準に選定するようにしています。

事例1 Instagram「タビジョ」を核に旅好き女子との関係を深める

自己表現の場や役割を与えることで心の距離がぐっと縮まる

タビジョ公式インスタグラマーを中心に、「タビジョ・レポーター」としてさまざまな観光地に赴き(これまで15カ国に50名以上を派遣)、現地滞在中にInstagramストーリーを使ってライブ配信や動画レポートをするほか、ユーザー参加型の旅マガジン「Like the World」で旅のレポートを書いていただいています。

「Like the World」では、それまでエイチ・アイ・エス発のコンテンツを中心に発信していましたが、タビジョ・レポーターによる記事を公開したところ、記事のSNSシェア数が格段に増えました。タビジョ・レポーター以外にも、ユニークな国や地域に留学中・在住の方にもお声かけしてレポートを寄せていただいており、毎週水曜日に更新、これまでに公開した記事の数は100件にのぼります。

「動画レポートをする」「レポート記事を書く」──こうした、ちょっとした"役割"を任せること、タビジョの方々に新たな自己表現の場を提供することで、皆さんとエイチ・アイ・エスとの「旅先の魅力を発信する」ことを軸としたつながりを強めることができているのではないかと感じています …

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