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手書きの戦略論。

クリエイティブブリーフとは広告の設計図である。

磯部光毅

図1

前回に引き続き、アカウントプランニングのお話を。おさらいになりますが、アカウントプランニングとは、消費者の意識や行動を深く理解し、それを広告開発に活かすプロセスで、戦略論的には、消費者の「深層心理」を重視したところにポイントがありました。前回は主にアカウントプランニングの歴史を、そして今回はコンシューマーインサイト、クリエイティブブリーフといった大切な構成要素について、できるだけ実践的な視点で書いてみます。

コンシューマーインサイトとは「人を動かす心のツボ」

コンシューマーインサイトとは何か?100人いれば100通りの定義があるでしょうが、一番オーソドックスなのは「人を動かす心のツボ」という表現ではないかと思います。では、なぜインサイトが重要なのか。その前提には、今のマーケティングを取り巻く、次のような環境認識があります。

つまり、消費意欲が減退しているし、商品の差別化も難しい、なにより広告なんか関心をもって見ちゃいない。だから、商品のUSPを素直に訴求しても購買喚起が難しい。しかも消費者は必ずしも理性的に判断して商品を選んでいるわけではない、という認識です。

別のインサイトの定義としては、「ブランドと消費者のつながりに関する新しい発見」「ブランドの価値の本質」「人の気持ちを動かす普遍的な欲求」といった本質を深く追求した真面目な定義もあれば、「消費者が自分でも気づいていない本音」「それを言われると弱いなというポイント」みたいな、いい意味で軽めの定義も。もちろん、どれも間違ってはいないでしょう。

インサイトをプランニングで活用しようとする際、いくつか落とし穴があります。例えば、インサイトは“発見”しないといけないと言われていますが、そのブランドに対してこれまで誰も見つけてこなかった、広告で訴求してこなかったものは、たいていニッチなものが多い。ゆえにそこを突いたところで、動く人の数が少ないということが往々にして起こります。

またブランド間の違いが少ない中では、ブランド固有のインサイト発見は結構難しい。そういう場合はカテゴリーに共通するインサイトを見つけ、それを他社よりも先に訴求するほうが、意外とうまくいくことは多いでしょう。さらにありがちな間違いは、“消費者の本音”という言葉に惑わされて、人間の救いようのない本音や、コミュニケーション開発に使いようのないインサイトを、これこそ真実の声だと主張してしまうこと。なんらかの形でブランドにポジティブに活用できる心のツボでなければ意味がありません。

本当の気持ちをあぶりだすリサーチ手法の発達

アカウントプランニングの発展にともない、インサイトをあぶりだすためのさまざまなリサーチ手法が生まれました。これまで一般的に行われてきたグループインタビューでは、本当の気持ち、つまり自分では言語化しにくかったり、気づいていなかったりするような気持ちはなかなか探れないのではないか、という問題があったのです。磯部が把握しているだけでも数十の手法がありますので、おそらく世界を見渡せば無数にあるのでしょう。ちなみに、主に以下の5つの方向で、手法は深化、発展していきました。

(1)投影法を活用するやり方

ブランドを人や動物にたとえるといったやり方や、会話の吹き出しを書く「ダイヤローグバルーン」など。

(2)非言語ツールを活用するやり方

ビジュアルコラージュやカラーイメージを作成、選択させるなど。

(3)日常を詳細に記録するやり方

日記調査や、その場の気持ちを録音する音声ダイアリーなど。

(4)現場でリアルな声を聞くやり方

クルマに同乗してのインタビュー、家庭訪問、ホームパーティ、お泊りデプスなど。

(5)強制的な状況をつくり、無意識をあぶりだすやり方

お金を渡して実際に商品を購入してもらうバーチャルショッピングや、ブランドの死に際し、どんな追悼文を書くかというオビチュアリー手法、商品を一定期間使わせないことで価値をあぶりだすハングリーテストなど。

最近ではこれらが発展し、対象者に無理に言語化を促すのでなく、徹底的な行動観察からあぶりだす、エスノグラフィーが盛り上がってきています。

クリエイティブブリーフの基本となる8つの要素

さて、アカウントプランニングでは、プランニングは1枚のペーパーに集約されます。そう、クリエイティブブリーフです。クリエイティブブリーフはいわば、広告の設計書。どんなコミュニケーションをつくるのか、その骨組みを示すもので、フォーマットはエージェンシーごとに微妙に異なります。また、高級自動車なのかスナック菓子なのか、カテゴリーによっても適したフォーマットは異なるので、クライアントサイドが独自のものを持っている場合も。テレビC Mや新聞広告といった出稿媒体を指定した形で書かれ、基本は以下の8つの要素を含んでいます。

(1)広告の目的

その広告を何の目的でつくるのかを記載します。重要なのは、目標がその広告によって達成できる目標であること。したがって「シェア25%の奪取」「売上1200億の達成」といったビジネス上の目標を書いてはいけません。「今10%のトライアル率を17%に引き上げる」「競合ブランドよりも○○の点で優れていると認識させる」「既存ユーザーとの絆を強め、離脱率を低下させる」など、達成することを明確化しましょう。

(2)ターゲット

その広告が話しかける相手は誰かを明確にします。ちなみに、実際のマーケティングターゲットではなく、このコミュニケーションによって認識の変化を起こしたい「理想顧客像」で書くべき。ブリーフを受け取った人が、その人物像をいきいきと思い浮かべられるように、属性、行動、意識を書きます。

(3)現状(どう思われているか)

ターゲットが、そのブランドをどのように認識しているか。定量、定性調査などで判明した、現状のブランドパーセプションを書きます。

(4)将来像(どう変えたいか)

現状のパーセプションどのように変えたいのか、そのゴールとなるブランドの姿を書く欄です。

(5)コンシューマーインサイト(人を動かす心のツボは?)

現状のパーセプションを、将来像=ゴールとなるブランド像に変えるためには、どんな深層心理をつけば心が動くか、欲しくなるかのツボを発見しなければなりません。生活者を主語として書くのがいいでしょう。

(6)プロポジション(何をメッセージするか)

上記のインサイトを持ったターゲットに対して何をメッセージするのか。ブランドからのpropose(提案)ですから、ブランドを主語として書かれるものです。

(7)信じられる理由(RTB:reason to believe)

そのプロポジションが納得できる理由です。主に商品の属性や性能が書かれることが多いですが、企業イメージや生産国/エリアのイメージなど、あるいは「一番売れているから」「○○のお店で取り扱っているから」といった商品外の特性でも構いません。

(8)トーン(tone of voice)

広告をつくるときには、何を伝えるのかも大切ですが、どういう語り口、雰囲気で伝えるのかも大切です。説得調なのか、エンターテインメントとして見せるのか、社会的なテーマとして共感させるのかなどなど。メッセージをより強く伝えるために、どの語り口がよいかを書く欄です。また、この欄にはブランドパーソナリティを書くこともあります。親近感がある、権威的、自然体、生真面目などなど。ただし、トーンは表現アイデアそのものであることも多いので、あえてブリーフで規定せずに、クリエイターに任せる場合も多くあります。

クリエイティブブリーフは「契約書」か「ジャンプ台」か

クリエイティブブリーフをつくるうえで大切なのは、ボックスの穴埋めでなく、各項目をつないでいくと戦略ストーリーになっているということ。このターゲットのこのインサイトをつくために、このプロポジションを伝えることで、こういう将来像になって、広告目的が達成されるんだ、と一本の線でつながるように。

クリエイティブブリーフはプランナーとクリエイターの間の契約書なのか、それともクリエイティブを触発するジャンプ台なのか、という議論があります。アカウントプランナーの公式見解は後者。飛距離のあるクリエイティブをつくるには、足元がぐらぐらしていたら、飛ぶことすらままならないでしょう?そのためのしっかりしたジャンプ台がクリエイティブブリーフであるという言い方です。

アカウントプランナーは自らを「creative catalyst」と称することが多いように、ブリーフで方向性を示しながら発想を触発できるのが優秀なプランナー。ブリーフが納得できるもので、クリエイターを触発するものであることはもちろん、表現の自由も担保しなければなりません。もしクリエイターがピンとこなかったら、あるいはもっといいアイデアのプランを持ってきたら、ブリーフを書き換えるくらいの柔軟性も必要になってきます。

ただ実際は、プランナーがブリーフを書き、クリエイターが受け取るというバケツリレーで業務は進みがちで、一種の仕様書として運用されることが多いのも現実。そこで「こんなブリーフじゃいいクリエイティブつくれないよ」なんて摩擦が起こったりもするわけです。

アカウントプランニングからワンテーブルのプランニングへ

アカウントプランニングはメガエージェンシーでは当たり前のプロセスになりつつも、2000年代に入ると、そのままでは時代にそぐわない側面が出てきました。その理由は3つ。

1つ目は、心理学でいう「刺激―反応モデルの限界」です。クリエイティブブリーフは「(既存4媒体の)広告を見て、理想のパーセプションへ変化を起こさせる」ことを目指すもの。ところが、広告の目的が多様化し、意識の変化ではなく、ブランド体験や具体的な行動喚起が重要になってくると、このモデルは意味が低下していきました。

2つ目は、「プロポジションの限界」です。アカウントプランニングは、ブランドからのプロポジション=メッセージを届けるという考え方がベース。しかし、デジタル技術の発展によって、参加させる、口コミを起こす、絆を強める、共鳴させる、体感させるなど様々なコミュニケーションのやり口が生まれ、メッセージを「伝える」という捉え方そのものが、現実にはまらなくなってきたのです。

3つ目は「単一媒体ブリーフの限界」です。コミュニケーションが多様になり、また課題がますます複雑化する中で、もはやどの媒体で何をするか、どう組み合わせるか、全体をくくるコンセプトは何かといった、ブリーフ作成のもっと手前の部分がより重要になってきました。テレビCMのブリーフです、グラフィックのブリーフです、というより、コミュニケーション全体のインサイトやアイデア、そして伝え方のシナリオがより大切になってきたのです。

今、アカウントプランニングのプロセスは「ワンテーブル」へと変化してきています。もちろん、現在でもクリエイティブブリーフはメガエージェンシーを中心に使われていますが、アカウントプランナーが作成しクリエイターにブリーフィングするというカチッとした流れは過去のもの。プランニングの初期段階から、関係するスタッフがワンテーブルで議論する中でつくられる方向になっています。今やアカウントプランニングはアカウントプランニングとは呼ばれず、一般名詞の「プランニング」と呼ばれ、当たり前のプロセスとして進化を続けています。

アカウントプランナー・ コピーライター 磯部光毅(いそべ・こおき)

磯部光毅事務所 アカウントプランナー・コピーライター。1972年生まれ。博報堂にてストラテジックプランニング局、制作局を経て2007年独立。戦略とクリエイティブの境界を超える横断的なプランニングが得意。著書に『ブレイクスルー ひらめきはロジックから生まれる』(共vol.5 著、宣伝会議刊)。
http://www.isobekoki.com/

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