いよいよ今回は7つの戦略論の最後、WOM論(Word of Mouth、ウォムあるいはワムと読みます)です。平たく言うと口コミ。まずは定義ですが、アメリカの業界団体のWOMMA(word of mouth marketingassociation)によれば、WOMマーケティングとは、
"any business action that earns a customer recommendation," but, in the big world of creative campaigns and engagement techniques, WOMM means much more.WOMM is about harnessing the power of people to build brand awareness.
「『話題になるために行う活動のすべて』であり、広告キャンぺーンやエンゲージメント手法においては『ブランドイメージを構築するために生活者の力を活用すること』」となっています。
今、WOMをあえて戦略論に入れるべき理由
はたしてWOMは戦略論なのか?実は少し悩みました。もちろん手法のひとつと捉えることもできるでしょう。例えば、表現レイヤーで言えば、居酒屋で話題になったり、子どもたちの間で流行るような表現をつくろうというのは昔からあった話ですし、人づてに情報が伝わることで低コストでたくさんの認知を獲得できる手段だと考えるのであれば、PR論、メディア論となります。
それでも、この連載であえて戦略論に入れたいと考えたのは、「トーカビリティ/話題にしやすさ」こそが大事である、というWOM論のフィロソフィーが、これからのコミュニケーション戦略においてますます重要になる概念だと考えたからです。
企業やメディアからの情報より「友人・知人の口コミ」が信頼される
WOMを戦略レイヤーで捉えるべきもうひとつの理由、それは今、企業から直接発せられた情報よりも、「人」を介して接触した情報のほうが「信頼」「共感」できるという、厳然たる事実があります。
一昔前まで口コミは単なる一個人の意見にすぎず、その信頼性は低いものでした。しかし今では、「友人・知人の勧め」が最も信頼できる情報源になっていると、複数の調査が示しています。送り手=商品を売りたい側からの一次情報や、大手メディアによって編集された情報より、受け手=自分と同じ目線で商品を選ぶ側である友人・知人のフィルターを通った情報の方が信頼性が高いのです。
WOMがマーケティング業界で注目されるようになったのは、ソーシャルメディアの登場があったからに他なりません。ソーシャルメディアは、これまで発信手段を持たなかった一般の人たちによる情報発信を可能にすることで、いわばこれまで包まれていたベールをはがして、ブランドや商品のホントを明らかにしてしまいました。一方で企業側も、WOMを自然発生に任せるのではなく、マーケティングに活かせる戦略として使い始めたわけです。
「トーカビリティ」をつくる5つの視点
WOM(口コミ)マーケティングの手法は進化し続けていますが、最も大切なこと、それは「話題にしやすさ=トーカビリティ(talkability)」です。トーカブルにするための視点を挙げると、「ネタ」「仕掛け」「人」「コミュニティ」「社会性」の5つ。では、順番に説明していきましょう。
(1)「ネタ」
世間が話題にしやすい材料を用意するということ。最も大切な視点で、「バズマーケティング」のポイントは、一にも二にもネタです。
(2)「仕掛け」
人から人へ話題が拡散しやすくするための仕組みづくりや種まきをすること。いわゆる「バイラルマーケティング」の考え方がこれにあたります。「バイラル(viral)」とは「ウイルス性の」という意味です。バズとバイラルでは意味は異なりますが、現場感覚で言うと「バズになりそうなネタを、バイラルしやすいカタチ(例えば動画)で提供する」ということをするので、結局やることは一緒のような気もします。最近では、バイラルメディア、ネットニュースなどによって面白いネタはさらに早く拡散するようになってきています。
(3)「人」
話題を広げてくれそうな人にアプローチして拡散してもらうこと。どんな「人」に影響力を行使してもらうべきか、様々な分類がなされています。例えば、特定の製品・サービスを熱狂的に支持し、他人にその素晴らしさを自発的に宣伝する「エバンジェリスト」、特定のカテゴリーの専門知識が豊富で、その情報を一般の人に伝えていく「オピニオンリーダー」、他者に先駆けて、新しい製品やサービスを採用する「イノベーター」、幅広い人脈や異なるカテゴリーにつながりを持っていて …