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手書きの戦略論。

戦略を進化させてきたものは何か?

磯部光毅

前回までの連載で、あまたある戦略ワードを7つの「流派」に整理し、その歴史や変遷を紹介してきました。それぞれ大切にしているポイント、思想が異なる7つの戦略論を、簡単に振り返ると以下のようになります。

(1)ポジショニング:競合との「違い」を明らかにして、伝える戦略。

(2)ブランド:その商品の「らしさ」を規定し、伝える戦略。

(3)アカウントプランニング:ブランドに対する顧客の「深層心理」を発見し、表現開発に生かす戦略。

(4)ダイレクト:顧客からの直接の「反応」を獲得し、対話を通じて長期的な関係を築く戦略。

(5)IMC:顧客とブランド情報とのすべての接点を「統合」的にデザインする戦略。

(6)エンゲージメント:顧客の「参加」を引き出すことで、関心や共感を獲得する戦略。

(7)WOM:「話題性」のある情報をつくり、人づてに拡散させていく戦略。

しかしなぜ、異なる思想を持った戦略論が7つも存在しているのでしょうか?そして、それぞれの戦略論同士はどのような相互関係をもって進化してきたのでしょうか?実は、戦略論の底流に存在する次の3つの論争を理解すると分かりやすいと思います。

(1)訴求に関する論争 
ハードセルか、ソフトセルか。

(2)主導権に関する論争 
送り手主導か、受け手主導か。

(3)購買決定モデルに関する論争 
人はどのように購買にいざなわれるか。A.刺激-反応モデル、B.情報処理モデル、C.行動感情モデルの3つのアプローチ。

このことを前提にして、話を進めていきましょう。

ハードセルvs.ソフトセルの“100年戦争”

昨今のコミュニケーション戦略において二項対立的に語られるのがマスvs.デジタル。実はこの対立の構図は100年前から存在していました。そもそも、マスは「メディア」で、デジタルは「テクノロジー」。対立の位相が異なりますよね。

戦略論レベルでは「ブランド論」vs.「ダイレクト論」の論争とも言えます。顧客の頭の中に良好なブランドイメージの連鎖構造をつくることを狙う「ブランド論」と、効率的な顧客獲得を狙うダイレクト論は、思想も目的も違います。

マス広告とネット広告の関係もそうです。圧倒的な認知力を背景にブランド価値を顧客に植え付けているという自負を持つマス陣営にとっては、獲得型のネット広告は、価値を生み出さず、新規顧客も増やさず、すでに興味を持っている層を刈り取っているだけに見える。一方、顧客の反応をつぶさに見つめて効率的に顧客獲得を行っている自負を持つネット広告陣営にとって、イメージを語っているだけのように感じるマス広告は、お金の無駄遣いに見える。

こうした対立の構図は20世紀初頭にまでさかのぼります。当時、アメリカの広告界では、商品のベネフィットを直接的に訴求する「ハードセル」と、商品の良さを間接的、情緒的、イメージ的に訴求する「ソフトセル」がせめぎ合っていました。

1940年代にはハードセル陣営のロッサー・リーブスがUSP(ユニーク・セリング・プロポジション)という手法を編み出し、レイモンド・ルビカム(Young&Rubicam創設者)を代表とするソフトセル陣営と対立していたのです。

1950~60年代3つの戦略論の誕生

1950年代から60年代にかけて、戦略論的な変化が訪れます。時はテレビが娯楽の中心となり、クリエイティブ革命が起こった広告黄金時代。ハードセル/ソフトセル論争の延長線上に、7つの戦略論のうちの …

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WOMは戦略論なのか?キモは話題化できるか
エンゲージメントとは、参加である。
統合は、メディア視点から顧客視点へ。
ネット広告は、刈り取りから関係づくりへ。
ダイレクトとはLTV最大化を目指す手法である。

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