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メディア化する企業とコンテンツ戦略

お客さまとの真の触れ合いを生む、コミュニティとしての自社メディア

後藤 洋 トライベック・ストラテジー 取締役COO

企業が長年にわたり、自社メディアとして活用してきた企業サイトだが、その双方向性を活かしきれていないのが実情だ。

企業にとってコントロールしやすく、また最近ではテクノロジーの発展によって運営業務の負担も軽くなりつつある企業サイトをより有効に活用することが、大手企業はもちろん、中小企業のコミュニケーションをさらに効果的にしていく。

"会社の顔"としてのオウンドメディア

情報発信の主体は企業から生活者へ、消費対象は"モノ"から"コト"へ、そして情報取得手段はシングルからマルチへ。こうしたコミュニケーション活動におけるパワーシフトは、ユーザーの価値観を変化させるだけでなく、コミュニケーションを媒介するメディアに求められる役割も変えてきました。ユーザーの価値観の変化、すなわちそれは購買活動に関わる一連のプロセスにおけるユーザーインサイトやマインドの変化をもたらしました。ユーザーは、ここ数年でフェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアを通じて、これまでの何倍という購買関連情報を容易に得ることができるようになったのです。

このような背景で叫ばれるのは、企業が発信する情報は、もはや必要なくなるのではないかという声です。本当に必要なくなるのか?答えはノーです。たしかに情報量は飛躍的に増えました。しかしながら、ユーザーが求めている情報は、量ではなく質、つまり「より信頼できる有益な情報」なのです。

そして、「より信頼できる有益な情報=企業の顔としての情報」へのニーズに応えられるのが、何を隠そう、企業のオウンドメディアなのです。情報氾濫時代の今だからこそ、企業は"会社の顔"としてのオウンドメディアを活かし、企業や商品のPR、そして自分たちらしさや魅力の訴求︱︱そうした企業価値向上に取り組むチャンスがあるのです。

ユーザーインサイトの把握が戦略構築の起点

オウンドメディア戦略を見直す上で重要なことは、企業がユーザーインサイトを正しく把握した上で、それが企業の思いを表現するための"映し鏡"となっていると認識することです。

なぜユーザーインサイトの把握が必要なのか、考えてみましょう。企業がユーザーとのコミュニケーションを成立させるためには、ユーザーがその企業に求めるコンテンツや、情報に対する期待、そしてアクセスする目的を知ることが必要となります。このとき、とりわけ重要なインサイトが「ユーザーはどのような"きっかけ"でオウンドメディアにアクセスするのか」ということです。なぜなら、"きっかけ"はユーザーの行動プロセスの起点となっており、そこにユーザーインサイトの本質があるからです。

ユーザーにとって、コミュニケーション活動のすべてが企業のオウンドメディアで完結することはありません。少なくとも企業とユーザーとの間には、さまざまなコンタクトポイントが存在し、複数の"きっかけ"が存在しています。オウンドメディア戦略を策定する上でもっとも重要なのは、このユーザーの"きっかけ"を起点とした行動プロセス全体、つまり「UXジャーニー(ユーザー体験プロセス)」を捉えることです。

「UXジャーニー」は、ユーザーと企業のコミュニケーションを可視化する最適な手段であり、それによって企業のオウンドメディアの担うべき役割が可視化されます。その役割とは、たとえば、問い合わせや資料請求などのコンバージョンなのか、企業イメージアップや想起集合づくりのためのブランディングなのか、もしくはメインメディアへの送客装置なのか⋮⋮その答えは「UXジャーニー」の中にあるのです。

ユーザーとの共創コミュニケーション

オウンドメディアにおいてコミュニケーションが成立しているか否かは、企業とユーザーの間でキャッチボールが成立しているかどうかで判断することができます。これを、情報・メッセージ・コンテンツのキャッチボールと考えるならば、企業やユーザー、どちらかのワンウェイ状態は、コミュニケーションとは言えません。キャッチボール状態とは、企業がユーザーに伝えたいこと=企業の魅力や商品の魅力を発信し、そしてユーザーは、それを有益な情報として受け止め、さらなるリクエストを発信する。そして企業は、そのユーザーのリクエストを受け止め、さらに有益な情報発信をしていく。

この状態がキャッチボールであり、オウンドメディアの成長に欠かせない「共創コミュニケーション」であると言えます。

発信する情報に加えたい、その企業"らしさ"

そして、この「共創コミュニケーション」において重要なのが、企業は何を、誰に伝えたいのかという根本的な「思い」です。これをはっきりせずに、総花的なコミュニケーションを考えると、オウンドメディア自体が散漫な状態になり、いわゆる「普通」のメディアになってしまいます。

考えてみてください。誰がオウンドメディアに来訪するのかを。オウンドメディアにアクセスしてくるユーザーのほとんどが、何らかの「エクスペリエンスニーズ」を持っています。「エクスペリエンスニーズ」とは、オウンドメディアにアクセスした時に、「その企業または商品の理解が進んだ」「自分にとって有益なコンテンツに巡り合えた」「疑問だったことが解消された」といった、多様な目的を達成するまでのプロセスを含めた一連の経験に対するニーズの総体と言えます。ですから、そこに必要なのは、ユーザーの目的に合った情報をただ伝える、一方的に伝えるということだけでなく、そこに企業としての思い、つまり"らしさ"をアドオンすることが重要になってくるのです。それによって、企業からユーザーへ情報を「伝える」というプロセスは、企業の思いが自然とユーザーに「伝わる」という体験価値をもたらすのです。

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