企業のコミュニケーション資産を棚卸しし、それにアイデアを付与することでメディア化させる。このように、企業のマーケターには、時に新たな・独自のメディアを創出することも求められている。ここでは、自社のコミュニケーション資産をメディア化するために必要な視点と考え方を、事例を交えて解説する。
常識にとらわれないすべてがメディアと考える
おそらく多くの中小企業にとって、広告にかけられる予算は非常に限られていると思います。大手企業のようにマスメディアを使うことは難しいでしょう。では、こうしたバイイングメディアを駆使しないと自社の魅力は伝わらないのかというと、そんなことはないと信じています。大切なのは、届けたい相手は誰なのか、ターゲットの気持ちをしっかり読み解くこと。自社の商品やサービスは、その相手にとってどんな価値があるのか、他社とは違うメッセージを見つけること。「他社との差別化が難しい」という声も聞きますが、「自分たちにしかない魅力」は、どの会社にも必ずあります。人が一人として同じ人がいないように、すべての企業に、その企業にしかないキラリと光る何かがあるはずです。そして、常識にとらわれないこと。自社を取り巻くすべてがメディアだと考えれば、自分たちならではのやり方が見つかると思います。
ケース1▶ 七沢荘 営業活動のすべてを、メッセージにする
七沢荘という温泉旅館があります。競争が激しい温泉業界にあって、独自のブランドイメージを確立しつつある旅館です。私たちが出会った当時、温泉業界の景況は非常に厳しく、七沢荘も例外ではありませんでした。売上は右肩下がりで、従業員のモチベーションも下がる一方でした。本厚木という立地は、都心と箱根の間にあり、温泉目当ての観光客が通り過ぎてしまう地域。さらに駅からはバスで30分かかるため、集客が難しい場所でした。しかも、カリスマだった初代社長が会長職に退き、2代目の社長が経営を始めた時期でもありました。そのような過渡期に直面していた七沢荘からのオーダーは、生き残りをかけた、ブランドの再構築でした。