先進企業は事業においてサステナブルな取り組みをどのように実践、発信しているのでしょうか。社会貢献活動を軸に精力的な取り組みをする知花くらら氏が経営者にインタビューする不定期連載です。
ムダやムラをなくす
知花:クロコくんをCMで拝見しているのですが、改めて「ガイシ」って何でしょう?黒衣のように、見えないけれど私たちの生活を支えてくれているのでしょうか。
小林:社名の「ガイシ」とは「碍子」と書き、鉄塔についている白いそろばんの玉のようなものが「がいし」です。発電所で生まれた電気は変電所などを経て送電線を通っています。がいしにはその際に電気を漏らさない役割と、長く重たい送電線をつり下げる役割があります。
知花:エネルギーの効率的な利用に欠かせないのですね。
小林:がいしの製造で培ったセラミック技術を発展させて現在取り組んでいるのが、カーボンニュートラルとデジタル社会に向けて貢献することです。
知花:具体的な施策はありますか。
小林:カーボンニュートラルに向けた取り組みのひとつは蓄電池です。自然エネルギーによる発電は気候条件などもあり不安定で、それを蓄電することで安定した電力供給を支えています。発電所の隣に設置するNAS®電池という大規模なものから非常に薄くて小さいものまで様々です。デジタル社会分野では、電気自動車が走りながら充電できるような仕組みに貢献する製品づくりを進めています。これが実現すれば送電時の電力ロスが減り、資源を有効活用できます。
知花:薄型の蓄電池が一般的になったら、生活が変わりそうです。今あるムダやムラを直したり無くしたりして、満遍なく行き渡らせる製品の開発をされているんですね。私自身は、飢餓のない世界を目指して食糧支援をする活動にかかわっているのですが、発想は同じです。食糧のあるところからないところへどうやって安全かつ効率的に運ぶかをいつも考えています。
小林:食糧を運ぶ場合、保管状態が大事になりますが、例えば、蓄電池入りのICチップを食糧につけてセンサーとして温度や湿度といった情報を取得し、発信もできるようになれば、より安全で効率的になります。
知花:お話を聞いていると、御社の事業の根底に流れている考え方自体が、SDGsの取り組みそのものに感じます。
小林:それはうれしいですね。私たちは1919年の設立以来、常に社会に貢献する製品を提供してきました。それはまさに「100年前から、SDGs発想。」と自負しています。また2050年までの環境ビジョンを決めたのですが、そのことを一番喜んでくれたのは従業員でした。クロコくんのように、目立たない事業をしてきたけれど、社会の役に立てているじゃないか、と再認識してくれています。
世界の当たり前を日本で
小林:知花さんは、SDGsという言葉が浸透する前から、海外で支援活動をされ発信していますよね。
知花:アフリカのザンビアに行ったことがきっかけでした。電気はもちろん下水道も整備されておらず衝撃を受けました。
小林:私も海外が長く、カナダ、インドネシア、米国、中国で計9年間、駐在を経験し、日本勤務時も年間120日程は海外出張でした。社会人になりたての頃は、感覚的に世界の半分くらいの場所では電気が通っていませんでした。電気があると人生が変わります。
知花:同感です。食糧を届けることは、命をつなぐためですが、食糧や電気があると、その先の人生につながっていくと思います。子どもたちが教育を受けられるようになったり、夢を描けるようになったり。そこがとても大きいと思います。海外ではジェンダーやダイバーシティの問題も活発に議論されていますが、その点はいかがですか。
小林:私は幼少期に米国に住んでいて、自分自身がマイノリティであると強く感じる経験をしてきましたから、そこには強い思いがあります。当社の従業員約2万人のうち半数は外国人です。LGBTQは当たり前ですし宗教の違いもあります。例えばインドネシアに工場を建てるなら、お祈りの時間がいる。そうしたことを現地の従業員に聞いて、教えてもらい、鍛えられています。
知花:従業員の声を聞いて取り組んだことは何でしょうか。
小林:例えば性別を問わずに使えるトイレを多数設けています。同性のパートナーに結婚祝い金などの福利厚生が使える制度も開始しています。
知花:海外では進んでいますが、国内においては先進的ですね。
小林:あくまで世界標準に近づけているだけで、もっとできることはあると思っています。
知花:海外に行くと日本の現状に気づかされることがあります。私は以前マサイの村に行った際、写真を一緒に撮ろう、とスマホを出されて。スマホ決済が日本より浸透している様子に驚いたことがありました。海外で経験した当たり前のことをもっと日本で取り入れられたらいいですね。
小林:海外のように、企業が様々な方や団体を支援したり寄付したりしやすい環境が整うといいと思っています。
知花:今を生きる私たちが、次の世代にどのような形で良いバトンを渡せるかを考えて、共感できる活動をしている団体を支援できるといいですね。
小林:持続可能な社会づくりは、未来に私たちが課せられたミッションです。SDGsの考えは、企業活動そのものが社会貢献できるか、次の世代に何が残せるか、ということだと捉えています。
知花:事業成長と社会貢献が同じ方向であるのは従業員の方も幸せですね。
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