「広報はコミュニケーション」という考えのもと、全員広報に取り組む長崎市。2019年からアドバイザーとして伴走した著者が市民と一緒につくる新たなまちづくりの可能性を解説する。
長崎市の広報戦略アドバイザーを務めて1年半が経とうとしている。改めて長崎市のことを知れば知るほど、可能性のあるまちだと思う。一方でその可能性を伝える難しさも感じている。世界遺産が2つあり、港町としての独自の文化や歴史がある。暮らしやすいまちをつくるために様々な工夫がなされているし、新たなまちの魅力をつくるための開発も進んでいる。あらゆるものがありすぎて、幕の内弁当状態なのである。
文化と変化の編集視点を
「記憶に残る幕の内弁当はない」といったのは秋元康さんだったと思うが、あらゆることに取り組んでいるからこそ、いま打ち出すべきメッセージを絞り込むべきだというのが私の考えだ。その際に重要となる長崎らしさは「文化」と「変化」の両方を持っていることだと私は考えている。
長崎が育んできた文化の魅力と、変化によって生まれる新しい魅力のそれぞれがうまく伝わっていないことが課題だと考えたときに、文化と変化を組み合わせて新しい長崎の魅力に昇華することが、これからの長崎らしさにつながるはずだ。
具体例を考えてみよう。先日、広報の打ち合わせをしている際に、チームメンバーからこんな話が出た。2023年に新幹線が開業したら、路面電車から新幹線まで乗れることを、乗り物好きの子どもが喜んでいるのだという。「新幹線で福岡までの時間が数十分早くなる」といったこれまでの話とはまったく違う視点で新鮮だった。
路面電車という長崎ならではの乗り物と、新幹線という新しい乗り物の両方が共存することで、他のまちにはない、長崎らしい魅力になるのだと感じた。暮らし目線で文化と変化を組み合わせるとこんなにおもしろいシーンを描けるのかと気付かされた。
同じように、文化と変化を組み合わせることができないか考えてみた。
2020年、稲佐山に新しくスロープカーが開業した。世界的なデザイナーが手掛けた車体のデザインも素晴らしいが、そこから夕陽や夜景を眺める体験はさらに素晴らしい。スロープカーは新しく生まれた魅力だが、夕陽や夜景は長崎に昔からある資産だ。
2021年に野母崎というエリアに恐竜博物館が完成する。恐竜博物館の...