長崎市では2019年8月から2020年3月にかけて「全員広報」を合言葉にした広報戦略がつくられた。アドバイザーとして関わった筆者が、市の挑戦の裏側を紹介する。
「広報とは何か?」釈迦に説法だと思いつつ、そんな話から始めてみたい。改めて広報とは何かと問われたら、みなさんはなんと答えるだろう。私は「広報とはコミュニケーション」と答える。ちなみにこれは、長崎市長の田上富久さんの受け売りだ。
自治体の人格は市の職員次第
田上さんは1980年の入庁直後の8年半とその後の2回、通算13年半広報を担当されてきた。全国の広報関係者の方々との交流を経て、たどり着いたのが「広報とはコミュニケーション」という考え方だった。窓口の職員が優しく対応してくれたら長崎は“優しいまち”だと思うだろうし、逆に冷たければ“冷たいまち”だと思われてしまう。地元のお店やコミュニティの集まりに職員が顔を出すことで、市役所やまちのイメージが変わることもある。
市役所や市役所職員から生まれるコミュニケーションのすべてが、まちのイメージを形づくっている。法人に人格があるように、自治体にも人格(体格?)があり、それをつくっているのはコミュニケーションなのだ。広報によって自治体の魅力的な人格をつくることができれば、市民との信頼関係の構築、ひいては関係人口や定住人口の増加につながるだろう。
私は生まれてから18年を長崎で過ごした。大学進学を機に市を離れ、就職し東京に住んで13年になる。退屈でしかたなくて、長崎を飛び出したものの、外に出てみるとその魅力がよく分かった。長崎を離れてからも市に関わるプロジェクトに携わってきた実績やご縁があり、2019年の8月から長崎市の広報戦略アドバイザーを務めることになった。
課せられたミッションは「広報戦略の策定」「既存の広報媒体の見直し」「職員の学び」の3つ。加えて、地域コミュニティ活性化プロジェクトからがん検診の周知に関してまで、様々な情報発信に関するアドバイスを行っている。まずは2019年8月から2020年3月にかけてつくった広報戦略の内容について紹介していこう。
魅力ある「文化」と「変化」
さて、戦略についてお話しするまえに聞いてみたい。みなさんは長崎にどんなイメージを持っているだろうか。異国情緒あふれる港町。教会に代表される、潜伏キリシタン関連資産。世界で最後の被爆地であり、平和のまち。軍艦島。ちゃんぽん⋯⋯あげ始めるとキリがない。手前味噌で恐縮だが、長崎の文化や歴史は本当に豊かである。
文化ばかりではない。2021年には...