長崎市で2019年8月から広報戦略のアドバイザーを行う筆者。パートナーを選ぶにも制約の多い自治体がPRしていくためには よりクリエイティブな企画力が求められているのではないか、と主張する。
私は広告会社に勤めているため、クライアントから仕事を受注することもあるし、制作会社に仕事を発注することもある。
行政ならではの苦悩
私が所属するチームでは、仕事を受ける際に伝えることがある。それは「提案はしません」ということだ。こちらが提案をして、それをクライアントがジャッジする。そのプロセスではどうしても受発注の上下関係が生まれてしまう。何か新しいことにチャレンジする際に、その上下関係がプラスに作用することはあまりない。提案をしないことで、クライアントも広告会社も関係なくフラットに理想やアイデアを話し合えるようになる。そうやってチーム一丸にならなければ、新しいことを成し遂げるのは難しい。
制作をお願いする発注者の立場になる際には、案件の性質に合わせて最適なパートナーを選ぶ。長崎の案件であれば、長崎のことをよく知っている人。宿泊施設の案件なら、旅が好きなメンバー。親しみやすいデザインが求められているなら、それをつくるのが得意なアートディレクターなど。頼む際には案件の特徴と、その人にお願いしたい理由、あなたにしかできない仕事だということを伝える。行政の仕事で難しいと思うのは、このフラットで案件の性質に合わせたチームづくりを、柔軟に行うハードルが高いということだ。
行政の仕事は公平性が求められるため、パートナーをこちらから指名することが難しい。組む相手をこちらから指定できない場合に、どうすれば良い企画を実現することができるだろう。事例を振り返りながら考えてみたい。
認知がゴールではない
長崎はリアス式の入り組んだ海岸や島が多いため、海岸線が長い。故に豊富な漁場があり、日本一の魚種を誇る。そのため季節の魚を楽しむことができる。そういった背景から「魚がおいしいまち」をPRしてきた。これまでの取り組みが奏功し、その認知は広まってきた。しかし、消費につながっていないという課題を解決したいと相談を受けた。
「魚がおいしいまち」を2020年度もPRする方針だったが...