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ウェブリスク24時

ネット上で暴露する社員と、謝罪で失敗する会社

鶴野充茂(ビーンスター 代表取締役)

ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。

暴露社員と謝罪で失敗する会社
今年1月、不動産会社に勤める女性社員が芸能人の家探しを案内したことを興奮気味にツイート。瞬く間に炎上した。会社は数日後に謝罪文を公開したが...。

不動産会社の女性社員がTwitterに、家探しでやってきた新婚の俳優・山本耕史さんと女優・堀北真希さん夫妻を接客したと投稿した。家賃35万円の賃貸を探しているなどと具体的な条件まで書いたこともあり、ネットは炎上した。そして社員本人や勤務先が特定され、個人情報がネット上に大量にまき散らされた。

勤務していたのが大手不動産会社センチュリー21系フランチャイズということもあって、直接の勤務先であるパキラハウス、そしてセンチュリー21の両方を非難する声が上がった。

会社の謝罪文によって「事実」であると認めてしまう

数日後、両社はそれぞれに謝罪文を公開したが、それがまた問題を含んでいた。センチュリー21はその謝罪文に「経緯」として、「著名な芸能人のお客様を賃貸物件にご案内後、自己のTwitter上に、当該お客様のお名前と賃貸物件情報の一部を記載していたことが判明致しました」と掲載。その上で「Twitterアカウントを削除」し、関係者に謝罪したと書いたのだ。

これは謝罪文によってさらなる組織の信頼失墜につながる典型例だ。一体どこが問題か分かるだろうか?個人のTwitter投稿だけなら、嘘か本当かは分からない。話に脚色がある可能性もあった。ところがこの謝罪文によって、Twitterに書かれていた条件で、本人たちが本当に家探しをしていたという事実が認定されてしまったことになる。つまり顧客情報を公式にバラしたのは、社員ではなく会社なのだ。

個人情報を守れない会社自体に対する落胆

ネット上には謝罪文の公開直後から「会社が認めたよ」と落胆のつぶやきが広がった。社員も社員なら会社も会社で軽率だ、というニュアンスである。Twitterアカウントを削除してもネットには大量にコピーが残るため、これも十分な対応とは言えない。二人が内見したと見られる物件の間取り図も、ネット上にまとめられている。

その後、「本当に借りる予定だったのか?」「情報をバラされた時の気持ちは?」などと当人たちはメディアから興味本位の質問攻めにあっていた。イメージを大切にする職業としては、とんだ迷惑だろう。

ほとんど周知となった事実を経緯として公表することに、問題を感じない人もいるかもしれない。しかし謝罪するなら、顧客を守る意思と覚悟をもっと見せるべきだったのではないか。

例えば、「顧客情報保護の観点から、来店の事実などの情報を開示することはできませんが」などとして、社員の投稿で生じた混乱や管理責任を謝罪しつつ、芸能人の家探しには言及を避けるのがひとつの方法だろう。

謝罪文には「お客様の情報は何よりも大切なもの」とあり、大いなる皮肉を物語る。謝罪文には研修を徹底するなどと対策が書かれているが、組織の意識がこれでは効果も疑わしい。

ビーンスター 代表取締役 鶴野充茂(つるの・みつしげ)

国連機関、ソニーなどでPRを経験し独立。日本パブリックリレーションズ協会理事。中小企業から国会まで幅広くPRとソーシャルメディア活用の仕組みづくりに取り組む。著書は『エライ人の失敗と人気の動画で学ぶ頭のいい伝え方』(日経BP社)ほか30万部超のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。
公式サイトは http://tsuruno.net
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