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リスク広報最前線

「土下座」謝罪が逆効果に バス転落事故の広報にみる被害者対応

浅見隆行(弁護士)

近年さらに複雑化する企業リスクに、広報はどう立ち向かうべきか。企業のリスクマネジメントを専門とする弁護士・浅見隆行氏が最新の企業リスク事例を踏まえて解説する。

1月15日未明、長野県軽井沢町で起きたバス転落事故。15人死亡(2月10日時点)という痛ましい結末に。ツアー会社、バス運行会社が取材に応じたが、特にバス運行会社「イーエスピー」の「土下座謝罪」はネット上での批判が相次いだ。

誰に謝罪をしているのか?

2016年1月15日、長野県軽井沢町で走行中のスキーツアーのバスが道路から転落し、乗客乗員15人が死亡する事故が発生しました。15日当日、バスの運行会社イーエスピーは山本崇人営業部長が「事故を起こしたことを申し訳なく思っている。遺族に真摯に対応していく」と謝罪し、スキーツアーを企画したキースツアーは福田万吉社長が「事故を起こし申し訳ない。利用者の家族には責任を持って対応する」と謝罪しました。

イーエスピーとキースツアーの両者に共通しているのは事故を起こしたことについて謝罪した上で、遺族への対応に触れていることです。しかし、この謝罪の言葉が当を得ていません。それは、一体誰を相手にした謝罪なのか、何が問題なのかが伝わらないからです。

今回のバス転落事故に限らず、企業不祥事を起こした際に「不祥事を起こして申し訳ありません」という言葉を用いた謝罪が散見されます。しかし、事故や不祥事を起こし、世の中から批判を浴びているから謝罪するのでしょうか。当然ですが、事故や不祥事を起こし、被害者や迷惑を受けた人がいるから、その被害者や迷惑を受けた人に対して謝罪するのです。

法的には、事故や不祥事という不法行為の被害者にしてしまった、ということを考えるべきでしょう。すなわち、「事故を起こしたこと」ではなく、事故によって生命を奪ったこと、負傷させたこと、恐怖感を味わわせたこと、トラウマを残したこと、遺族・家族を悲しませ、不安にさせたことに対して謝るべきなのです。だとすれば、謝罪の言葉には「尊い生命を奪い、大切な身体に怪我をさせ、ご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます」などという言葉が選ばれるべきです。

16日の記者会見では「亡くなられたお客さまやご遺族に心よりお詫び申し上げます」と、生命を落とした被害者に謝罪しました。しかし、事故当日にこうした言葉が出てこなかったのは、謝罪すべき相手が誰であるか、自社が発生させた事故がなぜ騒がれているのかを理解していないからではないかと思われます。

事件当日姿を現さなかった社長

イーエスピーはバス運行会社であり、事故を発生させた当事者です。しかし、15日当日に高橋美作社長は姿を現さず、16日の記者会見で初めて姿を見せました。15日早朝に転落事故を起こし、事故の状況は報道されていたのに、事故当日に社長が姿を見せることなく、営業部長がメディアに対応したこと自体が、社長に誠意がないと受け取られます。

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