複雑化する企業の諸問題に、広報はどう立ち向かうべきか。リスクマネジメントを専門とする弁護士・浅見隆行氏が最新のケーススタディを取り上げて解説する。
ジャニーズCM契約見直し
問題の経緯
2023年9月7日
ジャニーズ事務所(現スマイルアップ)は9月7日、記者会見を開き、性加害を認めて謝罪。社長交代や被害者補償を行う考えを明らかにした。会見後、広告主からは、所属タレントの広告起用を見直す動きが相次いだ。10月2日には再び会見を開き、社名変更や、所属タレントのマネジメント業務を手掛ける新会社を設立することを発表している。
ジャニーズ事務所(現スマイルアップ)は、2023年8月29日に性加害問題について「外部専門家による再発防止特別チーム」による調査報告書を公表し、9月7日に記者会見を行いました。これを受け、同事務所に所属するタレントをテレビCMほか広告に起用していた各企業は、起用の見直しなどの対応を明らかにしました。今回のように、取引先がコンプライアンスに関わる重大な問題を起こしたことが発覚したとき、企業はどのような姿勢を示したらよいかを、危機管理広報の観点から整理します。
コンプラ違反だけですぐ解約はできない
取引先が不正・不祥事などコンプライアンス違反を起こしたとしても、それで直ちに契約を解約できるわけではありません。コンプライアンス違反を起こしたことが契約に解約事由として定められているのであれば、それを理由に中途解約することができます。しかし、定められていないときには、取引先と交渉してでも契約期間中に合意解約するか、契約の期間が満了するまでは契約を継続させ更新はしない、という選択肢しかありません。
社外に契約の打ち切りの方針を広報する際には、コンプライアンス違反という大義名分だけでは不十分で、契約の内容と整合させる必要があります。また、取引先に改善の見込みがあるならコンプライアンス違反に対する取引先の対処を見守ってから判断する、組織的なコンプライアンス違反ではないならその後も取引を継続するとの判断も考えられます。
今回の各社の対応を見てみましょう。記者会見翌日の9月8日に、アサヒグループホールディングスとキリンホールディングスは、今後、所属タレントを起用した広告や販促を停止し、かつ、現行の契約の期間満了に伴って終了することを明らかにしました。サントリーホールディングスも、9月11日に、被害者の救済策や再発防止策で納得のいく説明があるまでは新たな契約を結ばないことを明らかにしました。3社とも、契約期間中の対応と期間満了後の対応とを分けて広報しています。契約期間中の解約事由には該当しなかったからではないかと推察できます。
一方、東京海上日動火災保険は契約期間満了後に更新しないこととともに、期間満了前の解除も検討していると明らかにしました。少しでも早く契約を解除しようと検討していることを示し、コンプライアンス違反に対する厳しい姿勢を印象づけられています。
他方で、住友金属鉱山は、9月21日に「直ちに取りやめる予定は現時点ではない」とあくまでも同日時点では契約を終了しない方針で…