一生かけて追求する価値のある「PR」の仕事の未来像を描こう
新聞記者、PR会社を経て活動する岡本純子氏によるグローバルトレンドのレポート。PRの現場で起きているパラダイムシフトを解説していきます。
米国PRのパラダイムシフト
読売新聞記者、PR会社を経て活動する岡本純子氏によるグローバルレポート。海外の最先端トレンドを踏まえ、PRの現場で起きているパラダイムシフトを解説していきます。今回は、昨今のアメリカなどでの最新事例から、スタートアップのPRのヒントを探ります。
前号で、PRの持つポテンシャルについて、アツく語らせていただいたが、今回の巻頭特集のテーマであるスモールビジネスにとっては、PRはまさに生命線ともいえるもの。その戦略がスタートアップの今後のビジネスの成否のカギを握ると言っても過言ではない。
ではいかに、PRでブランドを築き上げられるか。グローバルな事例や記者時代の経験などをひも解きながら、スタートアップ企業のPRのヒントをご紹介したい。
1997年、全国紙の経済部に配属になった筆者は、特集面の担当となり、記事のひとつとして「興銀、日銀を辞める人たち」をテーマに取り上げた。日本興業銀行や日本銀行といった超エリート組織を離れて新たな道を模索する人が出てきた、という話だった。終身雇用慣行の根強い日本にあって、大手企業を辞めていく人は非常にまれだった時代の話だ。そこに登場したのが、興銀を辞めたM氏。「実名は差し支えたい」と匿名だったが、「年収は半分になったが、やりがいを感じている」などという話をしていただいた。創業時の従業員はわずか6人。民家のような小さな社屋からのスタートだった。
その後、M氏の会社は産業紙(日経産業新聞など)→日本経済新聞(日経)本紙のベンチャー面→全国紙のベンチャー紹介欄→日経本紙の産業面→テレビ、といった感じで着実にメディア露出を重ね、知名度を上げていった。こうしたスタートアップ企業をメディアが取り上げる順番を、筆者は個人的に「すごろく」に例えていた。というのも、全国紙はまだ実績のない企業を簡単に取り上げるような「度胸」がないからだ。だから、日経の「推薦状」を見て、ようやく全国紙も食指を動かすという形になる。
M氏の会社は全国区になるまで、トップ広報を中心としたPRで多くのメディアにお墨付きをもらいながら、「わらしべ長者」のようにブランドを築き上げた。今や売上高は約6000億円。誰もが知るネットショッピングの超大手企業だ。
“良いPRストーリーは、一面広告より無限大に効果がある。”
リチャード・ブランソン
“マーケティング予算の最後の1ドルはPRに使うね。”
ビル・ゲイツ
スターバックス コーヒー、アマゾン、グーグル、マイクロソフト、Facebook、Apple……。これらのスーパー企業に共通するのは、どの会社も創成期はほぼ広告投資がゼロで、PRによるパブリシティの獲得によってブランドを確立したということだ。
強固なリーダーシップを発揮するトップの求心力とメッセージ発信力こそが、スタートアップやスモールビジネスの企業には不可欠にして、最強の武器なのだ。自ら一からビジネスを立ち上げたヴァージン・グループのリチャード・ブランソン、マイクロソフトのビル・ゲイツの発言はまさに、このことを意味している。
マスメディアという「マス」に沿って駒を進める「すごろく」のルールは今でも通用する部分もあるが、約20年が経過し、企業を取り巻くメディア事情も大きく変化し、手法はだいぶ多様化してきたように感じている。
そこで今回は、昨今のアメリカなどでのスタートアップの最先端事例を踏まえ、以下の5つの「PRレシピ」をおすすめしたい。
Unique Selling Proposition。つまり …