「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。
従業員のメンタルヘルス支援する取り組みが生産性や企業文化に影響
日本企業の労働生産性が他の先進国と比較して低いという問題は、長らく注目されている。この背景には、長時間労働やストレスの高い労働環境があり、これらは従業員のメンタルヘルスに大きな負担をかけている。現代社会において、メンタルヘルスは無視できない重要課題であり、企業における従業員の健康と幸福は生産性や創造性、企業文化に直接的な影響を及ぼす。しかし、メンタルヘルス支援の取り組みが直接的な企業利益に結びつかないという旧態依然とした認識や、部門間のコミュニケーションの壁により、このような取り組みが進展しづらい状況にある。広報部門がメンタルヘルスサポートの重要性を社内外に伝え、具体的な取り組みにつなげる役割を担うことが求められている。今回は、メンタルヘルスというパーソナルなテーマに対して、広報部門がどのように目標設定や効果測定を行い、企業文化の改善に貢献できるのか、企画書の書き方という視点から具体的なアプローチを考えていく。
視点1
他部門との連携と広報部門の役割
部門連携の重要性
メンタルヘルスへの取り組みは、人事や労務部門だけでなく、健康管理部門や安全管理部門など、多くの部門が関わる複合的な活動である。これらの部門と広報部門が連携することは、組織全体で一貫したメッセージを発信し、効果的なメンタルヘルス支援体制を構築するために不可欠だ。異なる専門知識やリソースを結集することで、より包括的で効果的なメンタルヘルスプログラムを実現できる。
企画書作成にあたっては、連携の促進が前提となる。目標や役割分担、各部門が協力して取り組むメリットなどを具体的に示す必要がある。また、成功事例を引用することで、提案の説得力を高め、関係者の支持を得やすくすることも必要だ。
図1 企画書における「部門連携」を促進する提案
ステップ1 目標の共有
明確な目標の設定
メンタルヘルスプログラムにおける全体的な目標を設定し文書化する。目標はSMART(具体的Specific、測定可能Measurable、達成可能Achievable、現実的Realistic、期限付きTime-bound)基準に沿うことが望ましい部門ごとの目標の特定
各部門がプログラムにおいてどのような役割を果たすかを特定し、それぞれの目標を設定する
ステップ2 役割分担の明確化
役割と責任の割り当て
各部門が担当する具体的な活動とそれに伴う責任を明確にする。プログラムの実施、コミュニケーション、監視などが含まれる連携の仕組みづくり
部門間での連絡や情報共有のための仕組みを設定する。定期的なミーティングや共有プラットフォームの利用なども効果的
ステップ3 期待される成果の詳細
具体的成果の特定
プログラムによって達成したい具体的な成果を特定し文書化する(従業員のメンタルヘルスの改善、生産性の向上など)成果の測定方法の定義
成果をどのように測定するか方法論を明確にする(アンケート調査、パフォーマンスデータの分析など)
ステップ4 成功事例の活用
関連する成功事例の収集
同様のプログラムで成功を収めた他の企業や部門の事例を収集する成功事例の分析と適用
収集した事例を分析し、それらが成功した理由や適用可能な戦略を特定する。これらの事例を企画書に引用することで説得力が高まる
ここに注目①
従業員の声の活用と広報部門の独自の役割
メンタルヘルスへの取り組みは一般的に人事や労務部門の範囲と考えられがちだが、広報部門は重要な役割を担う。従業員からの生の声を集め、共有することで、メンタルヘルスに対する理解と支援を促進することが可能な部門だ。従業員の経験談や体験談は、メンタルヘルスの問題を抽象的な「他人ごと」から具体的で身近なものへと変える力を持つ。実際にメンタルヘルスの問題を乗り越えた人の話や、支援プログラムを利用してポジティブな変化を経験した従業員の声を共有することで、他の従業員がサポートを求めるきっかけにもなり、組織全体のメンタルヘルスへの意識を高めることに役立つ。
広報部門の役割は、単に情報を伝えることではない。従業員が自らの経験を共有するプラットフォームを提供し、これらの話を効果的に形にすることも期待されている。また企画書に従業員の声を取り入れることで、経営層や他部門に対して、メンタルヘルス支援のプログラムが実際に従業員の生活にどのような影響を与えているかを具体的に示す機会にもなるなど、…