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広報担当者の事件簿

「俺は会見に出ないぞ」と広報に凄んだ、ワンマン社長の末路

佐々木政幸(アズソリューションズ 代表取締役社長)

    *この作品はフィクションであり、実在の人物・団体・事件などとは一切関係ありません。

    File 与田電機贈賄事件〈後編〉

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    【あらすじ】
    地元の有力企業である与田電機が、N市幹部へ賄賂を贈っていた─。北斗新聞の記者からの突然の電話で発覚した贈収賄事件。急きょ招集された役員会では、営業部長の神田が「社長の命令で行動した」と暴露する。怒り狂う社長の岸川は、責任を神田に押し付け、記者会見への出席を拒むが─。

    「先頭に立つ者」

    携帯電話の飛躍的な普及により、自宅の固定電話が鳴ることは、かなり珍しい。たまに呼び出し音が鳴ると、どきっとしてしまうことすらある。ベッドの中で聞こえたその音が、夢なのか現実なのか─、与田電機・総務部長の竹下良樹には一瞬分からなかった。枕元の携帯を覗くと《5:30》を表示している。体を緊張させながら飛び起き、居間の電話を取り上げた。

    「おはようございます、川端です。新聞、ご覧になりました?」。電話の主は挨拶もそこそこに聞いてきた。いや、とは言ったが何が起きたのかを想像するのは難くない。カーテンの隙間から外の暗さを確認しながら「ちょっと待ってくれ」と言う。門扉を開け、冬が近いことを肌で感じながら新聞受けを開けひったくるように取って戻ってきた。

    「N市施設部長 収賄の疑いで聴取 与田電機部長から現金数十万」

    北斗新聞の1面に大きく掲載されている。「出たのか…」。記事の本文も、一昨日の夜、北斗新聞の坂田が電話で話していたことと同じだった。川端との電話を切った後、すぐに会社に出向いた竹下だが、ビルの正面玄関には既に何人かのマスコミが待ちかまえていた。

    「事実関係が分かっておりませんので、何もコメントすることはありません」と告げながら、何とか事務所に辿りついたが、この後に起こるであろう事態を想像すると、逃げ出したい衝動に駆られる。

    「逮捕されたわけじゃないんだろ?」「時間の問題です。既に逮捕状は請求されているかと思います」。会議室に流れる空気を、社長の岸川の焦燥感が一層重いものにしている。竹下が俯き加減に応じる。「どうしてこんなことになるんだよ!」神田のバカが!と付け加え、昨日から自宅謹慎となっている営業部の神田をなじる。会長の与田道彦は朝から顔を見せず、他の出席者は何も言えない。岸川の独壇場だった。

    「神田さんは会社のために努力してきたのではないでしょうか。その結果が…」。竹下は「逮捕」という言葉を飲み込んだ。その時、会議室のドアがノックされ、総務部の別所が入室し、そのまま竹下に耳打ちしてきた。

    「N市の施設部長が逮捕されました」。竹下は会議室の壁を見つめながら、別所からの報告をオウム返しのように発した。全員の表情が凍り付いた。

    N市の施設部長逮捕の一報を受けてから30分後の朝7時30分。県警の捜査員が神田を自宅で逮捕したという連絡が入った。すぐに自席へ戻り、テレビのリモコンボタンを押す。画面に映し出されたのは、捜査員に前後を固められてパトカーに押し込まれる神田の姿だった。マスコミが大挙して押しかけ、カメラを向けている。神田には奥さんと高校生になる娘がいたはずだ。夫の、父の姿を見てどんな思いでいるだろうか。竹下は胸が掻き毟られる思いだった。

    神田の逮捕を映像越しに確認した竹下が会議室に戻ると、会長の与田も姿を見せている。

    「マスコミからの電話が鳴りっぱなしです。受付にもマスコミが押しかけてきています。会見で今回の件について説明をすべきです」「何を説明しろと言うんだ。神田が逮捕されたことを世間に謝れとでも言うつもりか。神田一人が勝手に行ったことだろう。個人的な問題で記者会見など行う必要はない」と岸川が睨みを利かせる。

    「個人的に賄賂を贈ったりしますか?会社のために行ったことではありませんか。社長、お言葉ですが…あなたの命令に背けずに行ったことだと…思いますが…」緊張のあまり喉の奥が張り付いていたが竹下は何とか反論した。

    「貴様、誰に向かって言っているんだ‼」と、岸川が机に置いていた書類の束を竹下に向けて投げつけてきた。目が血走っている。

    「俺は記者会見などやらないからな。総務部長のお前が説明しておけ、いいな」。営業で鍛え上げられた岸川のリーダーシップがこの会社を成長させてきたことは誰の目にも明らかだ。しかし、この期に及んで、神田に責任を負わせようとするトップの姿には潔さなど微塵もない。他の役員は俯いたまま、誰一人岸川を制止しようとしなかった。いや、できなかった。

    「では、私が記者会見を行おう」。刹那、首を垂れていた者たちの視線が集中した ...

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