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広報担当者の事件簿

異物混入を1週間隠し続けた、営業部長の顛末とは?

    ニチヨウ食品異物混入事件〈後編〉

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    【あらすじ】
    ニチヨウ食品で起きた、商品への異物混入事件。被害が初めて社内に報告されたのは、最初の被害者が出てから実に1週間後のこと。その間、被害は拡大し続けていた。事実をつかんだマスコミからの電話がひっきりなしに続き、広報部の面々が対応に追われるが、被害をひた隠しにしてきた張本人である営業部長の永江はいまだ事実の公表を渋る。事態の収束が見えぬ中、社長はある決断を下す─。

    電話をかけてきたのは、信濃毎朝新聞社会部記者の安藤だった。「亡くなった…?」受話器を取った広報部の上園慎也は混乱した。1週間前から肉団子による健康被害が起きていたことなど、広報部には何も伝えられていなかった。

    「どういうことですか?」

    上園の報告を受けた次長の遠藤正和が営業部長の永江に問い詰める。「広報に構っている時間などないんだよ。今どんな状況か、お前、理解してるのか?」「広報部は蚊帳の外だったんですから知るわけがない」「だったら黙ってろ。後で対策会議があるから、その時に聞きゃいい」と取り付く島もない。じゃあ、マスコミの対応はお任せしていいですね、と遠藤が応じると、永江が三白眼で睨み返す。

    「武器がなければ戦えないんです」「何言ってるんだ、戦ってどうするつもりだよ」とお互いケンカ腰になってきた。だが遠藤が、地元紙から問い合わせが入ったと告げると永江は渋々状況を説明した。

    「死にさえしなければ…」

    投げやりな説明を聞き終え背を向けたとき、小声で言う永江の本音を遠藤は聞き逃さなかった。

    その後も被害は拡大するばかりだった。対策会議が始まる前に、17人だった被害者は35人にまで拡大。甲府、千葉、横浜、日立、厚木だけでなく、川崎、相模原、松本の各市と東京都内にまで広がり始めてきている。遠藤の心が波立った。甲府市内で端を発してから1週間、営業部は他の部には知らせず、単独で解決しようとしていた。営業部の「天皇」と呼ばれている永江に、誰も進言などできなかったことは想像に難くない。だからと言って、永江の独断が許される組織であってはならないのだ。権力を持ったと勘違いしている男と、自己保身に偏った烏合の衆。「営業部には、きっちり落とし前をつけてもらう」─。

    「現在、調査中でございまして…あ、はい…誠に申し訳…ございません」。はあ…と営業部の社員がため息を漏らした。「いつまで続くんだよ…」と泣きそうな顔で呟く …

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