クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に活かしているのか。今回は、建築家の中村航さんです。仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。
『建築家なしの建築』
バーナード・ルドフスキー(著)、渡辺武信(訳)(鹿島出版会)
2023年に『POP URBANISM / 屋台・マーケットがつくる都市』という本を出版した。屋台のような小さなものが集まり、コレクティブで楽しく都市を形づくる現象が、世界中で起こっているということを多くの事例とともに示したものだ。これまでさまざまな都市を観察し続けてきた中で、屋台やマーケットに関する研究のいわば現代版であり、都市において人々が集まる新しい場に関する話である。
今、特に日本では、都市に動きと楽しさが必要とされている。都市における楽しさとは何か。権威的に上から計画されたものではなく、人々の営みや欲望が、自然発生的に集まり形になっていく時、ああ自由で楽しそうだなと思う。そしてそれはたいてい、ストリートや路地で、あるいは都市の裏側で起きていることだ。そういった半ば自然発生的に生まれる建築を集めたのが本書。気候や文化に従い定着する住居の形式や、生活の知恵が集積して形になった集落など、ルドフスキーのいうバナキュラー(土着)的関心を超えて、集まって住むことの根源的な楽しさを感じさせる。建築家として、建築物そのもの以上に人の営みやそ…