クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に活かしているのか。今回は、作家であり俳人としても活躍するせきしろさんです。仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。
『生きるということ』
エーリッヒ・フロム(著)、佐野哲郎(訳)
(紀伊國屋書店)
『生きるということ』エーリッヒ・フロム(著)、佐野哲郎(訳)(紀伊國屋書店)この本と出会ったのは大学時代です。当時、サステナブルという言葉がまだ一般的ではなかったころ。大学でファッションを勉強し、モデルとしても駆け出しだった私は、トレンドを捉えること、新しいものを生み出し続けること、そしてこの終わりのない消費サイクルに疲れ始めていたように思います。常に何かに追われているような気分だったのです。そんな時、ある授業で教授からこの本を薦めていただきました。その授業は「生活」とは何か、「家族」とは、「幸福」とは何かを真剣に考えるもので、振り返ってみても一番面白かった授業です。教授が紹介してくださったこの本は、人が生きていく中で、「持つ」ために生産と消費に追われて慢性的に不足を感じながら生きるのではなく、ただ「ある」という、生きることへの喜びを感じるもうひとつの生きかたを教えてくれます。この本に出会って以来、迷ったり、つまずいたりした時には、「何になりたいか」「何が欲しいか」「何がしたいか」ではなく、「どうありたいか」を自分に問いかけるようにしています。