クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に活かしているのか。今回は、作家であり俳人としても活躍するせきしろさんです。仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。
『小僧の神様・城の崎にて』
志賀直哉(著)
(新潮文庫)
中学生の時に具体的に何をしたのかは忘れたが何か悪いことをして、その罰として放課後に校庭の掃除をしたことがあった。野球部や吹奏楽部の音を聞きながら黙々と掃除をしていると教頭先生が通りかかり、私の姿を見つけて近付いてきた。何ごとだろうと思っていたら褒められた。どうやら教頭先生は私が自主的に掃除していると思ったらしい。そうではないことを伝えようとしたがせっかくだから褒められておくことにしたら教頭先生が「ご褒美に本をあげよう」と言ってどこかへ行った。やがて戻ってきた教頭先生が一冊の文庫本を私にプレゼントしてくれた。それが志賀直哉だった。
私は読書の習慣がない子であったが、試しに読んでみるとおもしろくて、読み終わったあとすぐに町の書店に行って別の志賀直哉の文庫本を何冊か買った。それから数年後私は上京することになるのだが、鞄の中に志賀直哉を入れた。
教頭先生の勘違いで出会えたという特殊なきっかけではあったものの、思い返せば私はあの日からずっと志賀直哉が好きなのである。
あの時掃除し…