パーパスドリブン
広告の役割が変化
審査を担当したカンヌライオンズのブランドエクスペリエンス&アクティベーション部門では、パーパスドリブンなアイデアが全体の8割以上を占めていた印象だった。この数年で、社会への全員参加のための施策や社会課題をテーマにとらえるアイデアは、人々の共感を呼び、同時にビジネスにも成果をもたらすことが証明されたと感じている。これはおそらく広告の役割が「商品やサービスの優位性を伝え、消費社会を活性化させる」というマーケティング的な立ち位置から「ブランドやビジネスをサステナブルなものにし、社会を活性化させる」という社会的役割に変わった(もしくはそれがトレンド)のだと感じた。(石原和)
Apple やIKEA のフィルム
カンヌライオンズのフィルム部門では、現地には行かずにオンラインで参加し、ファイナリストを選定するための予備審査を担当した。昨年はパーパスブランディングが各部門を席捲していたが、今年も同様に、自身の担当したカテゴリーにもそのような出品が多数あり、優れたものからその必然性に疑問を感じるものまであった。そんな中で、Apple 社の「R.I.P.Leon」や「Quietthe noise」などの機能にシンプルに集中した一連のフィルムはコミュニケーションの原点や本質を感じさせるもので、際立って見えた。それは同じくカンヌでゴールドを複数獲得したIKEA の「Second best」シリーズにも共通していたと感じる。ブランドが商品やその機能で意思を表明する潔さは、私は素敵だと思う。(金箱洋世)
パーパスに則した取り組み
事例の中で、ポーランドに移住するウクライナからの難民に対し、データに基づきポーランドのさまざまなエリアの生活費などの情報を提供するMastercard「Where To Settle」に注目した。同社のブランドパーパスであり、ビジネス戦略でもある「FinancialInclusion」を体現した施策。難民の移住問題において、大都市以外は居住地として想起されにくいため、大都市に過密が起きるという課題設定。それに対して自社データも活用しながら、それぞれの利用客にカスタマイズした情報を提供するという打ち手も非常に優れている。(萩原幸也)
パーパスドリブンの進化形
昨年は社会変革や業界変革をパーパスで実現するスケールの大きい仕事が多く受賞していたが、今年は本当に困った人が抱えるコミュニティの問題をパーパスでしっかり解決する仕事が多く受賞していた。その意味で、西アフリカのフラニ族のアルファベット書体を元に、フラニ族がそのビジネスやコミュニケーションを発展させていけるよう「ADLaM Display」フォントとしてデジタルに最適化させたマイクロソフトの施策(「ADLaM an Alphabet to Preserve aCulture」)は、2023 年のパーパスドリブンの進化形を象徴する受賞作だと思う。(木村健太郎)
TAM からTAP へ
TAM(Total Addressable Market、獲得できる可能性のある市場規模)の視点からTAP(Total AddressableProblem、解決できうる課題の規模)の視点へ。アドレスできるマーケットの大きさを広げ、パーパスを基軸とした企業やブランドへと育てることがクリエイティブの次のミッションだと感じた。さまざまな変革のきっかけを生み出したい。(浅井雅也)
身の丈の社会貢献
「Self Love Bouquet」が体現
社会課題解決がブランドにとって重要な要素であるという流れができて久しいが、地球温暖化阻止やジェンダーギャップの解消など、そんなに簡単にできることではない。アメリカのデリバリサービス企業Door-Dash がバレンタインの期間に販売した「Self Love Bouquet」は、自分宛に贈れるセルフプレジャーアイテム入りのブーケ。自社の事業の中で身の丈サイズの社会課題解決(女性の性のオープン化)を行うことが評価されたし、かつ...