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名作コピーの時間

一行の背中たち。

野澤幸司

    口の上手すぎる人から家を買うのはなんだかこわい。

    東京ナショナル住宅産業(現 パナソニック ホームズ)/1999年
    〇C/西岡史朗

    のびろ、ラーメン。
    音楽にうつつをぬかせ!

    タワーレコード/2002年
    〇C/木村透

    年賀状は、贈り物だと思う。

    郵便事業(現 日本郵便)/2008年
    〇C/岩崎俊一、岡本欣也

学生時代ハガキ職人をしていた僕は、おもしろいことを考えて言葉にすればやっていける!という危うい発想を抱えたまま広告の世界に入ってしまった。老舗の小さな広告会社で不本意にも営業に配属され、このままではどうにもならないと悟り、前職の制作会社に飛び込んだ。主な仕事は求人広告をつくること。この頃のどん底ぶりを語り始めたら幾千もの夜を超えてしまうが、おもしろけりゃいい、と全力でスベり倒していた自分をスクラップしてもらう上で最高の環境だった。

なにせ求人広告は人の人生につながっている。当時たいへんお世話になっていた西岡史朗さんの「口の上手すぎる人から家を買うのはなんだかこわい。」は住宅企業の求人コピー。しゃべりに自信のない求職者の背中を、優しく、けれど確かに押していた。

博報堂に移ってからは、木村透さんチーム在籍時の記憶が濃い。来期の目標を設定するミーティングのときのこと。木村さんは「達成できないとつらいから目標なんか持たなくていいよ」という衝撃的かつ目ウロコなアドバイスをくれた。TCC年鑑を眺めていたあるときには、「のびろ、ラーメン。音楽にうつつをぬかせ!」というタワレコのコピーを見つけ、木村さんに「これいいですね!」と伝えたところ「ふーん、いいコピーだね。……あ?俺書いたやつか」と……なんてニュートラル!これだけ達観し肩の力が抜けてるから大きな打席でも飛距離が出せるし、人も仕事も引き寄せられるのだろう。

ここ5年ほど日本郵政グループの案件を担当しており、ずっと手紙のコピーを考えてきた。コピーライターとしてこれ以上ありがたいことはないが、ひとつ大きな問題がある。それは「いいの書けたかも!」と思っても、過去のコピーを調べていくと、岩崎俊一さんと岡本欣也さんが近い考え方の言葉をすでに書いているのだ。しかも目がくらむほど高い精度で。

「年賀状は、贈り物だと思う。」というコピーはあまりにも有名で多くの人が記憶しているものだと思うけれど、自分にとってはずっと立ちはだかる師匠のような存在。その言葉があるから悔しいし苦しいけど、その言葉があるから奮い立つ。自分にとっても贈り物のようなコピーだ。

野澤幸司(のざわ・こうじ)
HAKUHODO CABIN所属。コピーライター。日本郵政グループ「進化するぬくもり。」、サントリー 伊右衛門「清々、堂々。」中外製薬「創造で、想像を超える。」、東京ガス「電気代にうる星やつら」、niko and...「であうにあう」、日野自動車「ヒノノニトン」、ヘーベルハウス「地球発想住宅」、TBSラジオ「何かが始まる音がする。」、著書に『妄想国語辞典』(扶桑社)など。

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