IDEA AND CREATIVITY
クリエイティブの専門メディア

           

名作コピーの時間

みんなに、愛されてる?

郡司 音

    チャップイ チャップイ どんとポチイ

    大日本除虫菊/1983年
    〇C/堀井博次、徳永眞一郎、田井中邦彦

    職業選択の自由 アハハン

    学生援護会/1990年
    〇C/一倉宏

    レーサー100!

    日本石油/1991年

この業界に入ってから好きになったコピーはたくさんあるけれど、それらはコピーライターとして「学ぶ」という意識もあって好きになったもので、もちろんそれは悪いことではないのだが、職業意識を持って感銘を受けたコピーを「名作」として選ぼうと思った時に、ふと10代の僕が疑わしそうな目でじっと40代の僕を見ているのに気付く。「それってどこがいいの?」と冷めてる彼は言うだろう。

現在の僕は言いようのない後ろめたさを感じる。彼は東京近郊の田舎でサッカーをやっていて、ガンズ・アンド・ローゼズをヘッドホンで聴きながら学生ズボンを腰バキしていた頃の自分だ。広告に1ミリも興味はなかったし、コピーという存在すら認識していなかった。いや、ただそれでも。興味がないという分厚いフィルターを通り抜けて記憶に残ったいくつかの「言葉」はあった。今回は過去の自分と折り合いをつけて、コピーを学ぶ前の僕の頭の中に居座ったコピーを選ぼう。

「どんと」(使い捨てカイロ)の「チャップイ チャップイ どんとポチイ」。調べてみると80年代前半の制作なのでリアルタイムではなくその後に追体験したコピーかもしれないが、言葉遊びを超えて呪術的なまでに体に侵食してくる怖さがあった。

『salida』(女性向け就職情報誌)の「職業選択の自由 アハハン」はシーナ&ロケッツの曲で、憲法の条文に「アハハン」をつけたパンク精神が心に刻まれた。最後は「レーサー100!」という商品名を言っただけのもの。ドライブ中に二人の外国人男性が英語で話しているのだが、最後にドライバーが不意に日本語で「レーサー100!」と叫び、笑う。なぜ日本語になるのか?なぜ笑うのか?その不条理さが面白かった。

最近では広告の役割は細分化されて「一人」に愛されることが大事になってきたし、わかる人に「深く」愛されたい、というコピーも増えた。それもいいのだが、僕はやっぱり日本中の人たちに「広く」愛されるコピーって良いなと思う。そういうコピーが減ってきているから、余計にそう思う。今回選んだ3つは、10代の僕に届いたし、結果としてみんなから愛されたコピーだったのではないか。手前味噌だが、アサヒ生ビールの「おつかれ生です」は、そういえば、そんな気持ちで書いたのだった。

郡司 音(ぐんじ・おん)
電通のクリエイティブディレクター、コピーライター。主なコピーに、アサヒ生ビール「日本のみなさん、おつかれ生です。」、ローソン「ローソンで ハピろー!」、セールスフォース・ジャパン「意味なく群れるよりも、意志のある孤立を。」など。独自の仕事スタイルが2022年『自分流~“知”の探求者たち~』(BS朝日)で特集された。

無料で読める『本日の記事』をメールでお届けいたします。
必要なメルマガをチェックするだけの簡単登録です。

お得なセットプランへの申込みはこちら

名作コピーの時間 の記事一覧

みんなに、愛されてる?(この記事です)
世の中をぶん殴るコピー
自分だけの山に登りたい。
Oh! RADIO
少年の心を刺したコピー。
色っぽい言葉
ブレーンTopへ戻る