少年の心を刺したコピー。
小学生の頃の夢は3つあった。1つ目は、「『いいとも』の司会者」になること。2つ目は、「ジャニーズ事務所に入る」こと。
ソニー/1982年
〇C/白土謙二、松本邦彦
本田技研工業/1988年
〇C/林尚司
東京ガス/2012年
〇C/細川美和子
私はラジオが好きだ。内ポケットにいつもトランジスタ・ラジオの青春。大人になりつくる側も経験している今、仕事としてのラジオもいい。日がな一日、暇を持て余していた若手時代は特に、昭和時代から現代に至るまで、膨大な量のラジオCMを聴きあさった。
1982年、ソニーテープ千一夜「寺山修司『色と音』」。歌人の寺山修司さんが朴訥と、目が見えない子どもたちは色を音で表現すると語っている。白は汽笛の音。金色は鍋をたたく音。お月さんはドロドロの油の中に石を投げこむ音。線の細いやわらかな語り口は大変に心地よく、こんな広告ならずっと聴いていたい。今の私は詩を書く感覚でラジオ原稿を書くのが好きで、それもここから来ているのかもしれないな。
1988年、「ホンダのスクーター 街のおでかけ」。大阪の街の珍エピソードを脱力系女子2人がダラダラぼやく。その中で、共通の先輩なべさんとどちらが仲良いかで小競り合いをしている。なべさんの新車は土足厳禁、なべさんは嫌いな女の子からの電話に容赦がない。そのうち私までなべさんに憧れを抱くようになり、自身が担当するラジオCMに登場してもらうことにした。30年ほどの時を経てなべさんは、なべさんサラダという人気のまかないを発明するバイトリーダーになっていた。矢沢あい先生の漫画でたとえるなら「ご近所の実果子、パラキスにも!」的なおしゃれのつもりでもあった。
2012年、東京ガス「電話レシピ」。企画者が出演者でもある。実際にお母さまに電話してコロッケのレシピを聞いている細川さんの声がそのまま採用されている。確かに誰かが電話で喋っているのを横で聞くのは、想像力が掻き立てられるから、ラジオCMの企画として素晴らしいな。そして何より細川さんの声と喋り方、言葉のチョイス、そのすべてが可憐。幾度となく聴き、60秒を自然と暗唱、気づけば細川さんのモノマネを体得。何かの食事会でご本人に会った時、酔いに任せ披露した。こわかったと思う。
いくつものラジオCMが、いくつもの時代を作った。2023年、若手から中堅に変わる。本当の幸せ教えてよ、壊れかけのRadioおたく。
電通関西支社
コピーライター/プランナー
正樂地 咲(しょうらくじ・さき)
FM大阪『無理なくつづく』という特番の担当もしています。ロングコートダディの声だけのコントや朗読、お芝居とか聴けるのでぜひ。
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