
『ぼくは勉強ができない』山田詠美(著)(新潮社,1993)
山田詠美さんの『ぼくは勉強ができない』は、高校生の頃から何度も読み返している小説です。主人公は「勉強はできないけど、女性にモテる」ちょっと大人びた17歳の高校生。バーで働く年上の恋人や、1人の“人”として子どもと向き合う母親と祖父など、かっこいい大人に囲まれながら、迷ったり悩んだりしながら成長していく物語です。
小説の中には、共感するフレーズや語り部分がいくつもあり、読み返すたびに考えさせられたり、気付きがあったりする。自分の軸を持って生きることや、倫理観や物事の道理など、学力では測れないことや、人と比べずに機嫌よく暮らすことなど、本に書かれていることを自分なりに解釈し、励まされたり、勇気をもらったり。仕事をするときの指針のようなものにもなっています。
そのひとつが「医学に関して、どれ程、膨大な知識を持っていても、血を見るのを怖がっていたら手術はできない。知識や考察というのは、ある大前提のその後に来るものではないのか」というくだりです。広告の仕事でも、たとえば、国内外の広告賞の動向や受賞作品などを見ていれば、たしかに知見は増えていきます。ただ、見聞きして得たものは、あくまでも“借り物のアイデア”でしかありません。
必要なのは、目の前にいるクライアントの課題を本質的に解決するための“ホンモノ”の知識。それは、ときには“血”を見るような覚悟で、クライアントと向き合い、議論を重ねた経験によって少しずつ身についていくものだと思います。
僕はデザイナーですが...