あらゆる仕事に求められるプロジェクトデザイン、そしてプロジェクトマネジメントのスキル。でも、そもそもプロジェクトって何?クリエイターの仕事にも活かせるの?──そんな疑問から始まった今回の企画。
集まってくれたのは、『予定通り進まないプロジェクトの進め方』など著書のほか、「プロジェクト工学」の視点から企業のプロジェクト実行支援に関わる後藤洋平さん。福岡発のスタートアップとして東証グロース市場に上場、プロジェクト管理ツール「Backlog」をはじめ、ワークフローをサポートするさまざまなサービスの開発・運営を行う、ヌーラボ代表の橋本正徳さん。そして、ACC2022をはじめ各種アワードで入賞した奇譚クラブ「カプセルトイの歴史」や、NHK Eテレの番組『TAROMAN』など、突き抜けた映像・CMを数々手がける藤井亮さん。
マネジメントのプロ、そして実践者が語る、多くの人たちを巻き込みながらプロジェクトを円滑に進めるコツとは?
ルーティンワーク以外、全てがプロジェクト
後藤:『予定通り進まないプロジェクトの進め方』という本を出版したことをきっかけに、4年ほど前に独立して、企業向けにプロジェクト進行のお手伝いをさせていただいたり、研修や講座で講師を務めたり。「プ譜」や「ミーティング地図」といった手法を提唱して、「プロジェクトとは、いったい何なのか」をひたすら考え続けながら生きている、ちょっと変わった人間です(笑)。
橋本:ヌーラボは、プロジェクト管理ツール「Backlog」や、ブラウザ上で図を書く「Cacoo」、チャットツール「Typetalk」など、ワークフローをサポートするサービスの開発・運営をしている会社です。個人活動としては、福岡のスタートアップを盛り上げる「明星和楽」というイベントを立ち上げ、2代目に引き継いだところです。
藤井:僕は元々、電通関西支社でCMディレクターをしていて、今は独立して、ざっくりいうと変なものばかりつくっていまして……。最近では、岡本太郎さんの作品や言葉をテーマにした『TAROMAN』(NHK Eテレ)という番組を撮ったり、奇譚クラブさんの「カプセルトイの歴史」という全て嘘の映像をつくって「大嘘博物館」というイベントをやったり。
後藤:『TAROMAN』の大ファンで、今日はめちゃくちゃ楽しみにしていました!
藤井:ありがとうございます。僕は時間通りに進めるとか、きれいに物事をまとめるのが上手ではなくて、たぶん一番苦手なものがプロジェクトマネジメントなんじゃないかなという気がしています。
後藤:プロジェクトと聞くと大きな開発をイメージしますが、本を出すのもプロジェクトだし、今日この場で話をするのもプロジェクト。「ルーティンワークじゃなければ全部プロジェクト」なんですね。本来、求める成果が出れば、管理手法って自由でいいはずなのですが、工程を上流から進める「ウォーターフォール型」がいいとか、開発サイクルを繰り返す「アジャイル型」がいいとか、プロジェクトマネジメントの真似ごとをした結果、うまくいかなくなってしまうケースが多くて。
橋本:どの型が適しているかは、時代背景や使っているツールによっても変わりますよね。昔はウォーターフォールでしかできなかったことが、今はアジャイルでできるようになっているかもしれないし、もしかしたら数年後には、移民によって労働人口が増えて、アジャイルで進めているものがウォーターフォールで解決するかもしれない。そう考えると、どうでもいいというか、その場その場で合っているものを選ぶのが重要だと思いますね。
後藤:プロジェクトという活動の本質は、新しいものや面白いもの、みんなが喜ぶものをつくること。分類なんか気にせず、価値のあるものをどんどん生み出していけるのが理想だなぁと思っています。
橋本:僕は、プロジェクトマネジメントの和訳が「プロジェクト管理」じゃなくて、「プロジェクトを失敗しない動き」とか「プロジェクトをやって後悔しないために」みたいになったらいいと思っていて。
後藤:私は「プロジェクトを思い通りにしよう」っていう和訳をつけています。
橋本:とりあえずは、コントロールできるようになるのを目標にした方がいいですよね。そのための知識として「型」を知っておいて、道具箱の中から出すという感じ。
後藤:もちろん最低限の「型」は必要ですが、お勉強で止まってしまい、かえって足かせになることも多いのが難しいところ。藤井さんはフレームワークなど関係なく、素晴らしい作品を次々生み出しているので、どうやって進めているのかなと。
藤井:僕自身、そもそも自分のやっていることがウォーターフォールなのかアジャイルなのかわかっていなくて、今非常に大ピンチだと思っているのですが(笑)。
後藤:プロジェクトマネジメントって、建築とか戦争から始まったんです。要するに大人数でひとつの成果物をつくるときに、設計図を書いて工程を分解して人を動かす。産業によって、それを進めるための「型」みたいなものが生まれた、と。
藤井:もちろん、CMやドラマの世界にもどう進めていくかみたいな「型」はあって、パターン化していると思います。ただ僕の場合は、そのルールをなるべく無視してやらせてもらっている部分があって。
後藤:作品を拝見して、きっとそうなんだろうと思っていました(笑)。
藤井:CMだと、ディレクターがいて、プランナーがいてコピーライターがいてというように役職がたくさんありますが、僕の場合は、その結構な範囲をひとりで担当してしまう「自分でやっちゃう型」。それでいつも首が締まるのですが、そうしないと熱量が下がってしまう気がして。
橋本:聞いていると、アジャイルっぽいのかな。絵コンテを描いて、それを渡して映像を撮って、また編集に渡してみたいな流れ作業のようなつくり方ではなくて、とにかく進みながら答えに近付いていく。
藤井:コンテを描いてひと通りつないで、また描き直して、セリフも入れてみて面白くないなと思ったら直して、みたいことをずっとやっているので。行ったり来たりを繰り返しながら、最終的に締め切りが来たら最新のものを納品する感じですね。
後藤:極めて真っ当なプロジェクトの進め方だと思います。ギリギリまで粘るって一番大事なことじゃないですか。分業化が進んだ組織では難しいですが、そのスタイルが一番理想なんじゃないかな。
YOHEI GOTO'S WORKS
スケジュールか、それともクオリティか
藤井:スケジューリングも、最初から粘り続けることを前提に後半をなるべく長く取ってもらっていて、自分の走るスピードに合わせてプロジェクトをつくっています。
橋本:僕を含めておそらくほとんどの人は、それをやってしまうと、締め切り日にはできていないという「プロジェクトあるある」が起こってしまう(笑)。
藤井:すごく怖がりなので、早いうちに尺になったものをつくって放送事故だけは免れる形にしてから、面白くないところを差し替え続けるパターンが多いですね。
後藤:私も本を書くときは一緒ですね。とにかく最後まで書いて、ダメなところを地道に直し続ける。つくっている過程のテンションみたいなものを、いかにして成果物に残すかって、すごく大事だと思うので。
橋本:でも、それができるのは、藤井さんのマネジメントが卓越しているから。クオリティマネジメントだけだと時間がオーバーしちゃうし、タイムマネジメントだけだとクオリティが下がってしまう。
藤井:大学で今、半年くらいかけて映像をつくる授業を持っていて、みんな最初はジブリとか新海誠さんのような壮大な企画書を書いてくるのですが、最終的には10秒のアニメになったりします(笑)。
後藤:タイムマネジメントとクオリティマネジメントは実は表裏一体で、そのバランス感覚はやっぱり、名誉やお金が絡む場で真剣勝負しないと身につかない。
藤井:僕は電通時代、大日本除虫菊(KINCHO)さんをクライアントとする関西の面白CMをつくる部署にいて、先輩たちがどれだけたくさん考えているかを、ずっと見てきたので。その経験は大きいですね。
後藤:親方の背中を見ながら10年くらい下積みをするみたいなやり方は、教育システムとしては良いと思うけれど、今は難しいところもある。どうやって...