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青山デザイン会議

企業とフォントの関係

伊藤正樹、鈴木 功、福田隆之

企業のブランディング活動、そしてインクルーシブな取り組みとして、コーポレートフォントやカスタムフォントの導入が進んでいます。集まってくれたのは、オリジナル書体「秀英体」の開発・普及活動を行うほか、文字の読み書きに困難がある人にも読みやすい「じぶんフォント」の開発にも関わる大日本印刷の伊藤正樹さん。日本初の雑誌専用の日本語フォント「AXIS Font」をはじめ、TBS、ブリヂストンなど多くの企業のコーポレートフォントの開発を手がけるタイププロジェクト代表の鈴木功さん。

そして『報道STATION』をはじめ、さまざまな番組でデザインディレクションを手がけ、2022年10月にリリースした報道番組用のオリジナルフォント「テレ朝UD」の開発リーダーも務めたテレビ朝日の福田隆之さん。なぜ今、多くの企業がオリジナルのフォント開発に注力するのか。さらにフォント開発の苦労やデジタルへの対応、自由にカスタマイズできるフォントの未来まで。マニアックで熱い、企業とフォントの“ほんと”の関係に迫ります。

コーポレートフォントが増えた理由

鈴木:1993年から2000年まで、アドビで書体デザイナーとして働いていました。2001年にタイププロジェクトという会社を設立して、デザイン誌『AXIS』の専用フォントの開発などリテールフォントや、コーポレートフォントをはじめとするカスタムフォントの開発を手がけています。

福田:テレビ朝日のインハウスのデザイナーとして、番組のタイトルロゴや、スタジオや映像のビジュアルのアートディレクションをしています。最近では、グラフィックデザインに関わるリクエストが増えてきて、「テレ朝UD」というオリジナルフォントの開発にも関わりました。

伊藤:私は1998年から大日本印刷(DNP)のオリジナル書体「秀英体」の開発を担当しています。秀英体は明治時代から受け継がれている伝統ある書体で、2005年から全面リニューアルをスタートしたのですが、そのプロジェクトリーダーも務めました。他にも、文字の読み書きに困難がある「ディスレクシア」の人たちでも認識しやすい「じぶんフォント」のプロトタイプを、2022年9月にリリースしました。

鈴木:10年ほど前から、欧米やグローバルな企業を中心に、カスタムフォントを持ちたいという機運が徐々に高まってきました。理由としては、海外展開にあたって、企業イメージの一貫性やアイデンティティを重視しているというのがひとつ。また、アナログからデジタルまで、ステークホルダーとの接点が多様化していることも挙げられるでしょう。

福田:テレビの世界でも、カスタムフォントを採用して、各局・番組で統一していこうという流れが進んでいます。テレビ朝日では、2022年春から報道番組の色やデザインを見直すプロジェクトがスタートして、テレ朝UDの開発はその一環でもありました。

鈴木:テレビのフォントも、ここ数年で劇的に変わりましたよね。

福田:紙メディアやWebメディアには、必ずデザイナーさんがいるので、見やすさは担保されていますが、テレビの場合は、なかなかそうしたポジションを認めてもらうのが難しい状況もあって……。

鈴木:私たちも2020年にTBSさんと一緒にオリジナルフォントを開発しましたが、テレビのような影響力のある媒体で、フォントの強みや良さが発揮されるというのは本当に素晴らしいことですよね。

福田:各局が採用したフォントを見てみると、日本人好みの丸くてかわいらしい書体が多かったんです。後発の我々としては悩んだのですが、テレビ朝日には硬派な報道という歴史があるので、フラットでクセの少ないフォントを選びました。

鈴木:TBSさんの場合は、コーポレート用とブランディング用の2つのフォントがあって、コーポレート用は全社員のマシンにインストールされているもの。またブランディング用は、社員の方が考えていたデザインをもとに新規開発した欧文を組み込んだ個性的な書体で、ここぞという場面で使われていますね。

福田:全社員というのは、すごいですね。うちの場合はまだそこまではいっていなくて、10月から報道を中心に8つの番組のテロップなどに使用しています。読みやすさはもちろんですが、ブランディング的な側面もあって、文字をパッと見た瞬間にどこの局かわかるような仕掛けがつくりたかったんです。最近では、ニュース番組などは特に、放送の数時間後にはネットにも流れていきますから。

鈴木:我々がフォントをつくる際には当然、可読性や快適な読み心地を重視します。コーポレートフォントの場合は、そこにクライアントの要望にかなうアイデンティティを加味していくというのが、難しいところであり面白いところでもあって。

福田:計算してみると、テレ朝UDを採用した8番組で、毎月12万枚ものテロップをつくっていました。かつては、番組タイトルやテロップを実際に紙に書く「タイトルさん」と呼ばれる職人さんがいたように、テレビの現場でもフォントはたくさん利用されてきたんです。広告やデザインの世界とは、使い方や装飾の仕方も、少し違うベクトルなのですが。

伊藤:なるほど、たしかにそうですね。

福田:ちなみに、テレ朝UDはフォントワークスさんの「UD角ゴ_ラージ」を一部つくり変えたもので、数字は2003年に私がつくったものがベースになっています。CM中も左上に流れる時計表示に使われていて、ずっとしっくりこない部分があったのですが、今回ようやく整え直すチャンスに恵まれて、自分の中のモヤモヤを解消できたというわけです(笑)。

    MASAKI ITO'S WORKS

    秀英体|現在、提供している秀英体全25書体。活版印刷の書体として誕生し、100年にわたって受け継がれる。「平成の大改刻」として2005年から7年かけてリニューアルされ、一般販売も行われている。

    じぶんフォント|3種類のじぶんフォントと、同フォント開発のベースとなった秀英丸ゴシック。読み書き困難のひとつ「ディスレクシア」の人にも読みやすいフォントの提供を目指している。

    秀英にじみ(上:秀英明朝/下:秀英にじみ明朝)

    DNP感情表現フォントシステムの利用イメージ

    大日本印刷の企業広告(秀英明朝、秀英角ゴシック金などを活用)

    感情表現字幕システムの利用イメージ

街を歩くとフォントが気になって仕方ない

伊藤:書籍の本文で使うフォントは、アドビの規約では約2万3000字、JIS第1・第2水準でも約7000字が必要。なかなか想像できないかもしれませんが、フォントって一点一画、1文字ずつ手でつくっていくもので、たとえば秀英体のリニューアルでは、明朝・ゴシックを揃えるのに7年もかかっているんです。

鈴木:タイププロジェクトとして最初に手がけたAXIS Fontは、和文部を1人でつくっていたので、どれだけ大変かというのは語り尽くせないくらい(笑)。でも実は、書体の制作はグループワークに向いていて、複数人でつくる方が面白いしやりがいもありますよね。

伊藤:秀英体も大人数が関わるプロジェクトでしたが、複数の人で統一したものをつくっていくのは、もちろん楽しさもある一方で、難しさもあって。職人のこだわりというか、たとえば文字の「はらい」はもっと長い方がいいとか、重心はもっと高い方がいいとか、かなり熱い議論になることもあります。

福田:「さ」と「き」の最後の一画をつなぐかつながないかとか、「ろ」と「る」が見分けられるかどうかとか。丸くしてしまうと「3」も「6」も、みんな「8」に見えちゃうよねなんて、私たちも話していました。

伊藤:漢字の場合も大変で、たとえば同じ「糸へん」でも、つくりとのバランスによって全部違う形にしなくてはいけないし、画数が多ければ細く、反対に簡単な文字は太めにつくらないといけない。秀英体は歴史がある書体のため、使っていただいた方々の要望に応えつつ、現代的な読みやすさやデジタルメディアでの安定性も求めていたので、そのあたりは苦労しましたね。

鈴木:タイププロジェクトでは、これまでつくってきたフォントのファミリーを最大限に活かして、ウエイトや字幅を自在に変えられる「フィットフォント」というシステムを開発しています。技術的な部分はもちろん、これまで蓄積してきたデータや知見が統合されて、だいぶやりやすくなってきました。もちろん大変さは、まだ残っていますけれど。

伊藤:秀英体は元々、広辞苑や新潮文庫の本文など、大日本印刷の工場で印刷される辞書や書籍の本文で使われていた書体。それが2009年に一般発売されたことで、徐々に本の表紙や広告、お菓子のパッケージなどにも使っていただけるようになりました。開発メンバーからすると秀英体はまさに自分の子どものようなもので、街を歩いていても、とにかくフォントが気になって仕方ない。

鈴木:そうそう...

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