静かで穏やか、そしてアヴァンギャルドなデザイン
東京・港区にある「21_21 DESIGN SIGHT」で「Material,or」が開催されている(11月5日まで)。この展覧会のディレクターを務めた吉泉聡さんと話していて、会場構成を手がけた建築家の中村竜治さんの視点に惹かれ、話を聞きに行った。
ファッション業界が大きな転機を迎え、企業やブランドの明暗が分かれつつある。そんな中にあって、好調な動きを見せているのが「ロエベ」。ロエベジャパンマーケティング&コミュニケーションディレクターを務める澤井愛佳さんの話を聞いた。
「千と千尋の神隠し」ロエベカプセルコレクション。ロエベとスタジオジブリの2度目のコラボレーションである今回は、「アンノン原宿」を湯屋に見立てポップアップを実施。日本独自で制作した本イベント用の特設Webサイトでは、千尋が花畑を抜けていく印象的なシーンを再現。
コロナ禍にあっても、ラグジュアリーブランドは好調に推移している。その理由として「富裕層がお金を使う場となっている」「格差社会の一画を押さえている」といった声を耳にするが、それだけではないと思う。グローバルな視点から未来に向けた潮流をとらえ、潤沢な知恵と労とお金を注いできた。そこが、ラグジュアリーブランドのラグジュアリーブランドたる所以であり、さすがと感じるところ。今に始まった話ではなく、過去から続けてきたことが、時代の転換によって加速し、一気に現象化している。私はそんな風にとらえてきた。
中でも「ロエベ」が人気を集めているのは、以前から気になっていた。奇をてらった“トレンド”を前面に出すのではなく、でも時代性を的確にとらえている。若い層も含めた幅広い顧客がついている。その理由を知りたいと思った。
お会いした澤井さんは、明るい笑顔を浮かべながら、知的で美しい言葉を紡ぐ方。気取らずフランクなキャラクターに誘われ、ブランドのこと、今までのキャリアのこと、女性として責あるマネジメントを担っていることなど、話は四方八方に広がった。
澤井さんは、ロエベに入る前は、クリエイティブエージェンシーであるAKQAの東京オフィスでクリエイティブプロダクションを統括していた。「ナイキの仕事などを通じ、テクノロジーとファッションを融合させるプロジェクトに豊かな喜びを感じていました」(澤井さん)。マーケティングをクリエイティブな領域で実施していくに際し、「人を感動させてブランドの世界観を感じてもらうことが肝要」と実感したという。
1846年、スペインの革職人がマドリードでスタートした工房が「ロエベ」の始まり。最新のコレクションより。
「ロエベ」は1846年にスペインの革職人がマドリードでスタートした工房で、高度な技を持った職人が、精緻な手仕事で革製品をつくっていた。その後、1960年代にアパレルを立ち上げ、1996年にはLVMHグループの傘下に入った。
ブランドの独自性を澤井さんはどう見ているのか。「革という素材を発祥としていることもあり、プロダクトとしての生々しさや実体がしっかりあること。オーセンティックで本質的なことを追求し続けてきた...