企業の未来を象徴するブランド
ミツカンは2019年3月5日、同社初のD2Cブランド「ZENB(ゼンブ)」をローンチした。コンセプトは、「『食べる』のぜんぶを、新しく。」。商品開発の段階からデザイン面に力を入れ、売上も昨年比8倍と成長している。国内外で商品を展開するミツカンはなぜD2Cのブランドを立ち上げたのだろうか。
ユーザーの心を動かす D2Cブランドのデザイン戦略
今年3月にブランド開始から5周年を迎えたおやつのサブスクリプションサービス「snaq.me(スナックミー)」。ダイレクトにユーザーとつながることで得た膨大なデータをもとにサービスの改善を重ね、相互のコミュニケーションを感じさせる体験をデザインしている。
おやつ体験BOX「snaq.me」。2週もしくは4週に一度、8種類のお菓子が届く。
「snaq.me」は、2016年3月に生まれた「おやつ体験BOX」だ。2週か4週に1度、約100種類のオリジナルのスナック(お菓子)の中から、食べきりサイズで8種類が届くD2Cのサブスクリプションサービス。1度の配達で価格は1980円(送料込み)。スナックは人工添加物や白砂糖、ショートニングなど不使用でナチュラルな素材からできており、約100種のうち1~2割が月ごとに替わる。これまで開発してきたスナックは1584種(3月18日時点)に及ぶ。
創業者/代表取締役 服部慎太郎さんは、日本総合研究所やボストン・コンサルティング・グループでのコンサルティング業務を経て、ディー・エヌ・エーでスタートアップへの投資業務を担当。その後独立してスナックミーを立ち上げた。「コンサルティング会社に在籍時は、忙しい時、お菓子がご飯代わりになっていました。そのうち、自分が気に入る体にいいお菓子が手軽に手に入ったらいいのに、と思うように。同じころに子どもが生まれ、よりお菓子の素材に目を向けるようになったんです。そこからsnaq.meの発足に至りました」と服部さんは話す。
ブランドのコンセプトは、「おやつの時間を価値あるものに。」。「お菓子」ではなく「おやつ」と表現するのは、時間や体験を重視するためだ。「おやつという言葉の語源は『八つ時(14時)に食べるもの』から。忙しくてお菓子を楽しむ時間も無かった自分の経験から、お菓子という“物”よりも、それを食べる“時間や体験”の価値を大切にしたいと思い、『おやつ』という言葉を意図的に用いています」(服部さん)。
今でこそ、snaq.meの業態はD2Cと評されるが、創業当初はセレクトして仕入れたお菓子を定期販売するサービスだった。そのため、初めからブランドイメージを固め、いわゆる「D2Cブランド」として打ち出したのではなく、「自分としてはWebサービスのようなイメージに近い」と服部さんは話す。
「ブランドとして完成させてからローンチしたわけではないので、当時はデザインもバラバラ。Webサービスのように、ユーザーからのフィードバックを得て反映する作業を繰り返してきました」。ユーザーの声を聞くため、当時からアンケートや電話でのヒアリングを積極的に実施。その中で聞こえてきたユーザーの声に応える形で、オリジナルのお菓子を企画し、OEMで製造するようになったという。
「地道なヒアリングやシステムの開発により、数百万件のユーザーデータが溜まってきた。ユーザーの趣味嗜好に合わせてサービスも随時アップデートしてきたが、そもそもブランドの“らしさ”とはなんだろう?」──そう考えた服部さんは、2020年3月、「ブランドリファイン」の実施に至る。「リニューアル」ではなく、これまでを振り返り見つめ直すための「リファイン(再定義)」。それまで「おやつの定期便」と銘打っていたものを、「おやつ体験BOX」に修正し、体験や時間を届けるサービスだというブランドのスタンスを明確にした。
また、おやつ体験の価値を「ぴったりme」「いろいろme」「わくわくme」などの7項目に整理。ロゴはデザイン会社HI(NY)と共に、旧バージョンのリスのモチーフを活かしつつ、少し抽象化した。ネイビーをキーカラーとした、落ち着いた印象を与えるデザインとなっている。「デザインは基本的に内製していますが、外部の意見を仰いだのは、ブランドを客観視してもらい、アイデアの幅を広げたかったため」と服部さん。それまで「楽しい」「かわいい」などをベースにしながらもどこか一貫性が無かったデザインに、一本筋を通すことで、より洗練されたイメージへとブラッシュアップした。
「おやつ体験」というだけあり、ユーザーの体験はあらゆる...