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青山デザイン会議

クリエイティブに生きるための「脱・東京」の手引き

佐別当隆志、亀山達矢・中川敦子、中川淳一郎

地方への移住や多拠点生活、ワーケーション、セミリタイア……。昨今のリモートワークの拡大とともに、フリーランスやクリエイターのみならず、一般のビジネスパーソンの中にも、そうした新しいライフスタイルを選ぶ人が増えています。

集まってくれたのは、2016年に一般社団法人シェアリングエコノミー協会の設立に携わり、2018年から定額制で住み放題の多拠点生活プラットフォーム「ADDress」代表を務める佐別当隆志さん。2011年の東日本大震災をきっかけに移住を考え始め、2015年から京都を拠点に活動する絵本作家、tupera tuperaの亀山達矢さんと中川敦子さん。『ウェブはバカと暇人のもの』などの著作でも知られ、2020年8月をもってセミリタイアを宣言、佐賀県唐津市に移住したネットニュース編集者の中川淳一郎さん。

好きな場所で暮らし働くことを選んだきっかけや、その楽しさ、それぞれの今後についても語っていただきました。

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移住、セミリタイア、多拠点生活の今

中川淳:2020年の8月まで、4つのネットメディアに関わって、月900本の記事を編集していました。でも競争が激しすぎて、これは40代後半の男がやる仕事じゃないなと感じて、個人の連載だけを残して、佐賀県の唐津市に移住しました。

亀山:僕らは絵本を中心に、イラストを描いたり、商品や企画の提案をしたり。ずっと東京で活動していたのですが、2015年に京都に移住して創作に励んでいます。

中川敦:子どもも2人いますが、もうすっかりこっちの暮らしにも慣れて。

中川淳:本当はアメリカで大統領選挙の取材をしたかったのですが、コロナの影響でビザが発給されなくなってしまって。嘆いていたら、ライターのヨッピーさんに「USAの代わりにSAGA行けば?」と言われて、いいねそれはと。

亀山:セミリタイアしたんですよね?

中川淳:はい。佐賀県庁の人からも「何をやりたいの?」と聞かれたので、「釣りと黄ニラを育てたい」と言って。どうせこれまでも行き当たりばったりで来たし、子どももいないので、自由なんですよ。

佐別当:僕は2018年に、月額4万円で日本全国に住み放題の「ADDress」というサービスを始めて、月の3分の1ぐらいはいろいろな地域を転々としています。

中川淳:ADDressを使っている人って、どういう人が多いんでしょう?

佐別当:クリエイターやデザイナー、IT系のほか、料理人やお医者さんなど、いろいろな職能を持っている方が多いですね。皆さん東京の仕事に飽きているというか、やっぱり仕事のためだけに働いている人たちではないと感じます。

中川敦:私は両親が京都出身で、京都生まれなのですが、育ったのは東京。東京では、仕事も友人関係も充実していて、何でも揃うし、他の土地に行く理由がありませんでした。それが東日本大震災をきっかけに、違う可能性を考えるようになって。

亀山:東京といっても住んでいたのは多摩ですけど。僕は18歳で三重から引っ越して、一度も電話番号が03(23区内)にならずに東京を去ったことになります(笑)。

佐別当:震災以降、地域にIターン・Uターンをして、ゲストハウスや工房をつくったり、起業家になったり。僕らが「ローカルイノベーター」と呼ぶ人たちが全国に散っていきました。2000年代前半には「ITが社会を変える」といわれましたが、2011年以降は「地域が社会を変える」。これからは地域が面白くなる、という感覚があって。

中川敦:私も最初は移住なんて、と思っていましたが、絵本作家さんの中には、地方で仕事をしている方もたくさんいるし、自分たちも東京にいないと仕事ができないというわけでもありませんでした。だったら長い人生、他の場所に住んでみるのも楽しいかもしれないな、と思って。

佐別当:今回のコロナでも、20代の若者を中心に、東京に定住することに違和感を覚える人たちが増えています。たとえば、授業がオンラインになった大学生がバイクで日本中を回っていたり、就職したけれど東京に家を借りる必要がなくなったので、実家+ADDressという暮らしを選んだり。

中川淳:利用できる期間などは、決まっているんですか?

佐別当:同じ場所には連続7日まで、という制限があります。あとは、光熱費も込みだし、Wi-Fiも家具も家電も揃っているので、身ひとつでどこでも暮らせます。

中川敦:東京って、同じ趣向の人が集まって、その業界の中で生きている感じがしますが、地方に行くと、それがもう少しほぐれて違う業種の人とも交わる機会が増える。

佐別当:サーフィンとか山登りとか農業とか、東京ではなかなか難しかったことが、お金をかけずにできるので、時間の流れがガラリと変わります。ベタな言い方ですけど、幸福度が上がる。生きている実感というか手触り感はすごく強いですね。

中川淳:佐別当さんのご家族は東京に?

佐別当:はい。台湾人の妻とはシェアハウスで知り合って結婚したのですが、子どもも同じ環境で育てたいということで、8年前に、家族でシェアハウスの運営を始めました。教育も少し変わっていて、子どもは学校には通っていないんです。これなら、僕がどこかに行くときにも連れていけますし、僕がいなくても、自宅でいろいろな人に教えてもらいながら勉強できます。

中川敦:それはすごいですね。うちは移住を決めたとき、長女が小学3年生だったので、少し心配していたのですが……。

亀山:意外とサバサバしていて、友だちが泣きながら「手紙書くね」と言っているのに、ほ~い……って(笑)。4歳だった息子なんて、2週間で京都弁になりましたし。

中川敦:子どもたちの感覚も変わってきていますよね。今はインターネットもあるし、自分の場所がここだけじゃないというのをわかっている。離れたからといって一生会えないわけじゃないし、移動することをそれほど恐れていないというか。

中川淳:子どもは、たくましいですね。

亀山:僕が「面白い!」と感じる人って、子どもの頃転勤族だった人が多いんです。全国を転々としながら、いろんな人に出会ってきたクールな感じっていうのかな。自分にはそれがないので、勝手に憧れていて。

佐別当:今は、30日未満の通学であれば転入・転校届がいらない「デュアルスクール」という制度もあるので、多拠点で学べる仕組みも徐々に整っていくと思います。

    TAKASHI SABETTO'S WORKS

    ADDress
    日本各地にあるADDressが運営する家に、定額(月額4万円~)で住み放題のサービス。水道光熱費込みで、家具や家電、Wi-Fiなども完備、初期費用なしで何度でも移動可能。現在、100拠点以上を展開する。

    一般社団法人シェアリングエコノミー協会
    場所・乗り物・人・スキル・お金など、各シェアサービスの普及や、業界の健全な発展を目的に2016年に設立。理事を務める。

    永田町 GRiD
    ソーシャルメディア事業などを手がけるガイアックスが運営するコミュニティビル。オフィスや会議室など、すべてがシェア可能。

    Miraie(ミライエ)
    「ゲストとシェアメイトと家族が住める一軒家」をコンセプトにした、佐別当さんの自宅兼シェアハウス。民泊も併設する。

東京を離れることで生まれたもの

中川淳:移住をして感じたのは、東京である程度、仕事の基盤を築いた人でないと難しいのではないかということ。そのあたり、tupera tuperaのお二人はいかがですか?

中川敦:私たちは割と、自分たちのスタイルを崩さずにできているかな。

亀山:大きな柱は絵本をつくることだし、東京にいた頃からワークショップや講演会で全国を飛び回っていたので、それも変わりません。たとえば佐賀だと、武雄市のこども図書館に大きな壁画を描きました。

中川淳:そうなんですか!

中川敦:とはいえ、メインはやっぱり創作活動なので、パソコンだけあればどこでも仕事ができるというわけではなくて、拠点となるアトリエは必要で。

佐別当:これまで地方で仕事ができる人たちといえば、フリーランスやクリエイターがほとんどでしたが、リモートワークが進んだおかげで、今は普通の会社員の比率が45%を超えています...

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