開会式までいよいよ1年を切り、チケット販売をはじめ大きな盛り上がりを見せる、東京オリンピック・パラリンピック。4月12日には、パラリンピックスポーツ初のオフィシャルゲームとなる『THE PEGASUS DREAM TOUR(ザ ペガサス ドリーム ツアー)』の制作が発表されました。今回の青山デザイン会議は、その制作に深く関わるクリエイター2人による特別編。
開発を手がけるのは、スクウェア・エニックスで『ファイナルファンタジーXV』など数々の人気ゲームのディレクターを務め、2018年に独立、JP GAMESを立ち上げた田畑端さん。そして、パラリンピックのメジャー化にはゲームの力が必要だと考え、IPC(国際パラリンピック委員会)に提案をしたのが、電通のエグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター 古川裕也さん。世界でも初の試みとなる公式ゲームはどのような想いで企画され、何を目指しているのか。さらに広告とゲーム、異なる業種のコラボレーションから生まれる、新たなクリエイティブとは?
Photo:amana for BRAIN Text:rewrite_W
なぜ、ゲームというツールが必要なのか
田畑:このプロジェクトのきっかけは、僕がまだスクウェア・エニックスにいた頃。古川さんとお会いしたとき、「パラリンピックをゲームにしたら面白いのではないか」という話を聞いたことでした。
古川:オリンピックのゲームはすでにありますが、パラリンピックはない。僕、実はファミコンのヘビーユーザーで、ソフトはほぼ全部持っているんです。
田畑:え!カセットの裏をフーッとか?
古川:やってました(笑)。今は全然ですが、ゲームが発展していく様子は横目で見ていて。ゲームには音楽も映像もアートもストーリーもあって、カテゴリー自体が総合芸術的。18~19世紀はオペラ、20世紀に映画が発明されて、21世紀の総合芸術は、もしかするとゲームなんじゃないか、と。ゲームはもはや、巨大なメディアですし。
田畑:実は僕が独立を決めた理由のひとつは、このプロジェクトをやってみたいという気持ちが高まったからです。ただ古川さんが面白いと話してくれたような、深い意味のところまではピンときてなくて。IPC(国際パラリンピック委員会)にプレゼンして、決まったのが去年の12月です。
古川:オリエンがあったわけじゃないので、”自主プレ”みたいなものですね。頼まれてもいないのにプレゼンする、という。
田畑:きっかけはそんな感じでした。
古川:パラリンピックはもちろんスポーツイベントですが、ある種の社会変革、ソーシャルムーブメントだと思うんです。要は、違いや個性を知って認め合うこと。それを知るのはみんなにとっていいことだし、世界を豊かにしてくれる。広告には、接触機会を増やすというファンクションもあるので、できることはありそうだなと。
田畑:パラリンピックに対していろんな光の当て方がある中で、ゲームに担ってほしい部分があったということですよね。
古川:はい。というか、田畑さんの顔を見てそう思ったというのが実際のところ。「本人がいるから、本人に言おう」と。
田畑:つくっているやつがいるから(笑)。
古川:ゲームをつくってはい終わり、だったら意味がないので、「THE PEGASUSDREAM TOUR」というゲームを起点に、いろいろ拡張していきたいと考えています。創作というより運動だと思っているので。ゲームはグローバルなものだし、なんといっても動かせる人の分母が大きいですから。
田畑:たぶんここに光を当ててくれと思っているんだろうなと感じたのは、パラリンピックというイベントをエンターテインメントとして伝える部分。競技に精通した人が遊ぶスポーツゲームじゃなくて、イベント自体が娯楽として楽しいと思えるような。
古川:そのとおりです。なんだか楽しそうとか、経験したことないぞという本能的反応が一番正確なので。それがないと何も動かないし、正しいことを正しく言えばいいというものでもない。間違っていないけれど効果がない、という結果になります。
田畑:おそらくゲームを遊ぶ人たちの大多数は、パラリンピックのことを深くは知らない。つまり、ゲームという体験を通して、パラリンピックや多様性のある社会というものを知っていく。実際に体験して学んだことは、すごく残りますよね。ゲームはそういう特性を強く持っているんです。その視点から、ゲームの入り口は、なるべく入りやすい世界観にしています。
古川:キャラクターにしてもそうですね。
田畑:義手をつけていたり、車いすに乗っていたりするんですけど、完全にゲームの世界のヒーローとして描いています。翼は、パラリンピアンの持っている可能性とかポテンシャルをイメージしたもの。タイトルも、最初からコード名は「ペガサス」だなと決めていました。人が進化していくことを表現する言葉としてぴったりだと思って。
広告とは「目的芸術」である
田畑:独立したあと、古川さんから「ゲームには、ゲーム以上のパワーがある」という言葉をもらって、今までその可能性を信じて仕事をしてきたことに改めて気づきました。今では、ゲームが社会課題に対する何らかのアプローチを担えると考えていて、それは広告のクリエイティブとも通じる部分があるんじゃないかと。
古川:広告とゲームというと一見関係ないし、共通点は「なんかチャラそう」というくらい(笑)。でも、苦労する場所とか他者の捉え方とか共通している部分と、やっぱり違う部分もあって、そこが面白い。
田畑:そういえば、古川さんのつくったキリンのCM「応援する者」はゲーム的ですよね。始まった瞬間「これは誰の人生だ?」と思っていると、実は香川真司選手の人生を追体験しているという。
古川:まさにロールプレイングゲーム。
田畑:そうです。ロールプレイングゲームは、プレイヤーが何者かになって、その人として成長し、何かを成し遂げるゲームです。あのCMは、短い時間の中にその要素が入っていました。まさにファミコンで培ったセンスですね。
古川:体内にまだ残っているのかも(笑)。
田畑:あとは、同じくキリンの「新しい応援」篇には驚きました。「あなたの声は、ピッチに届く」というメッセージで、僕らでは決して可視化できないイメージを可視化していたので。
古川:今はSNSもあって、ファンと選手の関係や応援の仕方が新しくなっている。だからピッチの中に、SNSでつぶやいている人とその言葉を実際に登場させるという絵をつくりました。企画時にこだわったのは...
あと60%
この記事は有料会員限定です。購読お申込みで続きをお読みいただけます。