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青山デザイン会議

自分の「好き」を世の中の「好き」にする仕事術

角張渉、高松夕佳、長畑宏明

「好きなことで、生きていく」。そんなYouTubeの広告が世の中を賑わせてから、はや数年。自分の好きなことを仕事にできたら……きっと、誰もが一度は、そんな理想を思い描いたことがあるでしょう。また、フリーランスをはじめ、これまでになかった仕事や働き方が注目を集めるとともに、さまざまなデバイスやサービスを活用することで、個人の可能性はますます広がっています。今回の青山デザイン会議に集まっていただいたのは、自分がやりたいと思った仕事を、たったひとりでつくり、今も活躍を続ける3人。

学生時代にレーベルを立ち上げ、2017年には15周年を迎えた「カクバリズム」の代表 角張渉さん。出版社勤務後、地元つくばに戻り、ひとり出版社「夕(せき)書房」をスタート、エッセイから写真集までさまざまなジャンルの単行本の編集を手がける髙松夕佳さん。そして、2014年に創刊されたインディペンデントファッション誌『STUDY』の編集長 長畑宏明さん。好きなことを仕事にする楽しさとこだわり、また、その過程で直面する難しさや葛藤について、そして今それをどう広げていこうと考えているのか、聞きました。

Photo:amana for BRAIN Text:rewrite_W

「好き」が仕事になる瞬間

長畑:2014年に『STUDY』というファッション雑誌を自分で立ち上げて、今6冊目。もともと音楽ライター志望で、就職するなら『snoozer』か『ロッキング・オン』の二択しか考えてなかったんです。そうしたら『snoozer』はなくなり、ロッキング・オンは落ちちゃって……。3年ほど会社勤めをしましたが、雑誌をつくるのは学生時代からの目標だったので、何も考えずに始めました。

角張:僕は、今年で41歳なんですけど、大学で東京に出てきてライブハウスでバイトをしながらバンドをやっていたんです。ブッキングの仕事もしていて、まわりに友だちのバンドがいっぱいいたんですよ。Hi-STANDARDをはじめインディーズレーベル隆盛の時代で、CDを出せば1000枚、2000枚売れる時代。でも、お金は思っている以上に全然もらえない。

長畑:レーベルが持っていってしまう?

角張:そういうところが案外多くて。だったら自分らでやろうかって話になって、学生ローンで30万円借りて、当時GOING STEADYの安孫子真哉くんと「ステフィン・レコーズ」というレーベルをつくりました。そしたら、最初に出したCDが5000枚くらい売れて。そのまま大学を出て、バイトをしながらレーベルを続けていたら、徐々に軌道に乗って今の「カクバリズム」に至る。すごい端折りましたけど(笑)。

髙松:私は会社勤めが長くて、最初は人文系の堅い出版社に入りました。次に絵本で知られる福音館書店に移って、月刊誌『母の友』の編集を約10年。思うところあって東京を離れ、地元のつくばに戻って夕書房という出版社を立ち上げました。

角張:この『家をせおって歩いた』っていう本、面白いですね。

髙松:前の会社にいたとき、同僚が「会社の前を家が歩いていた!」と携帯の写真を囲んで騒いでいて。実際には発泡スチロールでつくった家をかぶった人が歩いていたのですが。家の表札を頼りに検索をしたら、瓦の形もリアルにつくり込まれていて、これはアーティストに違いないと。そこでコンタクトをとって、彼の活動を追うようになりました。つくばに戻ってきたとき、移動しながら「家」で暮らした1年間の日記を出版したいと相談されて、いろんな出版社にかけあったけど難しかったというので、これだけは出すって決めて始めました。

長畑:すごくいい話じゃないですか。

髙松:少し話題になって新聞にも載せてもらったのですが、書評は版元がひとりであろうと大手であろうと、等価に並ぶのがうれしくて。自分は出版のメインストリームからは脱落したと思っていたから……。

角張:わかります、僕だけ就職しなかったので。でも、たとえば営業するにしろしないにしろ、何でも自分で選択できる楽しさがある。しないと首が締まりますけど(笑)。

髙松:会社勤めとはまったく種類の違う楽しさですね。でも、いつも「この面白さがわからないとしたらどうかしてる」くらいに思って本をつくっているのに、なかなか伝わらない!売るのは難しいですね。

角張:僕も「カクバリズム」を始めて17年。一時は、人様の人生を背負っていると思いすぎて、しんどいときもあったんです。でも所属アーティストに聞くと、そんなに背負ってほしいわけでもなかったりして(笑)。

長畑:僕なんて「どうしても関わりたいんです!」っていう大学生に手伝ってもらうのすら心苦しい。自分が何かを与えられる存在なのかな、とか考えて……。カクバリズムは今、社員は何人いるんですか?

角張:7人ですね。これが20~30人いれば、「売上を何千万立てるぞ!」ってなって、アーティストにももうちょっと定期的にリリースしてもらおうって考えるんですけど。一番中途半端だけど、すべてにおいていい塩梅かなって思いますけどね。

長畑:そのファミリー感がいいですよね。

角張:っていうか、どっかでメジャーに対するアンチテーゼがあるんですよね。世の中には10万枚売れたらすごい、紅白に出たらすごいっていう感覚があるじゃないですか。もちろんそうだけど、売れなくてもすばらしいものはある、という価値観だって存在する。

メジャーでできる人は燃料をめちゃめちゃ焚いて、成り上がってやるぞって気持ちがある程度ないとダメ。でも、うちのアーティストにはあまりない(笑)。そういう人に長く音楽を続けてほしいって気持ちがあるから、「リリースは3~4年にいっぺんでいいよ」って言いながらも、さすがに出なさすぎだろ!っていうせめぎ合い。

髙松:私は会社員が長かったし、雑誌をつくっていたので、著者の人脈もある程度あったんです。でも、いざひとりになってみると、会社員のときと視点や感覚がまるで変わっている自分に気づいてしまい……。結局人脈は活かせていないんですよね。

角張:ギブアンドテイクの関係が成り立たないと思うんじゃないですか?

髙松:それも大きいですね。一度、ある著者から「それで成り立つの?」と言われてしまったことがあって。専業作家は本の売れ行きが生活に影響するから、成り立たないところとは仕事できないっていうのは当たり前なんですけど。

角張:僕も、うちじゃなかったらもっと売れていたかもな、って考えます。でも、でかいところだったらダメになっていたかもしれないし、売れることがゴールでもないし。

髙松:今はむしろ、ここにこんなにすてきな人がいます!と最初に声をあげる人になりたい。どこにも所属しない今の私の感覚にビビッとくる人を探したほうが面白いし、本の出版が著者の活躍のきっかけになったら、と考えるだけでワクワクする。ひとりだからこそできることを追求したいです。

角張:そうしないと差も出ないですしね。

らしさなんて、なくっていい?

髙松:でも最近、著者とどっぷり付き合うことに、疲れてしまう瞬間があるんです。会社にいた頃は、会社の規定だからと断れたことも、すべて私の責任で判断しなくてはいけない。それぞれ個性の違う著者の熱意や希望に応えようとしすぎると、1冊つくっただけでへとへとになって……。

長畑:僕も今、苦しんでいるというか、向上心があるふりをしないとこの世界で生きていけないんではないか、と悩んでます。ちょうど『STUDY』と同じ時期に、インディペンデント誌が出始めてプッシュされて、1~2年はうまくいったんです。でもそのうち、自分のやっていることが大衆とどんどん交わっていくのを感じて。本当はもっとオルタナティブなものを表現したいって想いで始めたのに……。

髙松:そうそう、なりますよね。

長畑:お金もなくて誰からも相手にされないって状況が続くと、何をしているんだろうという感覚になって。今は原点回帰というか、映画とかを観て、「俺は何が好きだったんだろう」って確認しています。

角張:インプットの時間が必要な人なんじゃないですか。僕の場合は「好きなことを仕事にする」って言いながらも、自分では何もできなくて、他者のつくってくれたものを好きでやっているので。1回からっぽになったほうが楽そうだなって思いますね。

長畑:『STUDY』は今、ワンマイルっていう出版社から出してもらっていますが、制作費は売上で回収しないといけない。インディーズのミュージシャンと近いですよね。去年は頑張って2冊出したけど、ちょっと別の方向に散歩したいという気持ちもあって。

角張:でも散歩してたら食えなくなるし。

長畑:おととし、シャムキャッツというバンドのディレクションをさせてもらって、すごく楽しかったんです。そういう人たちともっとコミュニケーションをとって、自分の中に勇気を溜めていきたいなって。

角張:若いって言っていいのかわからないけど、ぐつぐつしていてうらやましい。

長畑:僕からすると、カクバリズム15周年は、胸熱くなるものがありました。こういうファミリーになるという青写真を描いていたとすると、すごく夢があるなと。

角張:これまでカクバリズムのアーティストって、あまり対バンをさせてこなかったんです。でも15周年でやってみたら楽しかった。そりゃ、頭からケツまで好きなバンドしかいないわけだから、当たり前ですよね。ただ、こういうふうになればいいとかは、あんまり考えてないんですけど。

長畑:レーベルで聴くっていう文化が根付いたら、音楽が変わるんじゃないですか?

角張:SpotifyとかApple Musicに移行している以上、ないでしょうね。昔、銀杏ボーイズの峯田和伸くんに「角張、おまえレーベル聴きなんかされたら終わりだぞ」って言われたことがあるんです。確かにそうだな、って。だからレーベルを愛してもらいつつも、作品性を重要視してもらいたい。

髙松:私もあえて壊そうとしていますね。つくる本はジャンルも違うし、棚も違う。「何がやりたいの?」って言われますが、私の中では筋が通っていて、30冊くらい出揃ったら見えてくるのだと思います。あとは出すタイミングも、"よきとき"でいい …

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