今回の青山デザイン会議は、広告・映像業界のプロデューサーがプロダクションの垣根を超えて集まり、結成されたクリエイティブユニット「Beyond」とのコラボレーション。監督やクリエイティブディレクターから依頼を受け、CM音楽の指揮をとる「音楽プロデューサー」が一堂に会した対談企画です。音楽プロデュースは、小誌でも、これまでなかなか掘り下げられなかったテーマ。作曲家でもなく、アーティストでもない、しかしCM制作に欠かせない彼らは、日頃どのような仕事をし、どんなことを考えているのでしょうか。
集まっていただいたのは、Beyondのみなさんが「この3人には安心して任せられる」と太鼓判を押す、福島節さん、緑川徹さん、山田勝也さんのお三方。Beyondの小澤祐治さん、泉家亮太さんにも加わっていただき、知られざるCM音楽プロデュース事情について、じっくり語り合いました。

Photo:amana photography Hiyori Ikai for BRAIN Text:rewrite_W

CM音楽の今と昔
小澤:僕らBeyondはCM制作のプロデューサーが集まったユニットで、広告・映像業界の活性化を目的に立ち上げました。その活動の中で、映像制作に携わる人たちに話を聞かせていただく機会を設けているのですが、CM音楽についてはこれまであまり取り上げたことがなかったんです。最初にみなさんのバックグラウンドを教えていただけますか?
福島:大学在学中からCM音楽の作曲を始めまして、この業界を志しました。(以前在籍していた会社で)緑川さんのアシスタントを2年間務めた後、プロデューサーになって、2014年にOngakushitsu Inc.を立ち上げました。キャリアとしてはプロデューサーを長くやってきましたが、最近は自身で演奏したり歌ったりすることを増やしていて、『しまじろうのわお!』という番組で「かなピーマン」という歌を歌ったりしています。
山田:僕はCM音楽の制作会社に10年務めて、その後、愛印という会社をつくって今に至ります。最近だと、福島さんと同じで、僕は『しまじろうのわお!』のオープニング曲をつくりました。
福島:あのオープニング、最高です!
山田:CMでは「キリンレモン」のオリジナル曲をモチーフに、いろいろなアーティストが歌うシリーズを手がけています。
緑川:僕はもともと別の音楽制作会社にいて、そこから独立してメロディー・パンチという会社をつくりました。最近の仕事としては、サントリーの「天然水 GREEN TEA」とか「LINEモバイル」でしょうか。
泉家:LINEモバイルのCMで、本田翼さんが歌っている「いい湯だな」は、緑川さんが選曲したんですか?あの組み合わせがすごいなと思って。
緑川:元のアイデアは、クリエイティブディレクターの福里真一さんです。とにかく"ぽくない"アレンジにしようと。最近のCM音楽って、そういうオリジナリティを発揮できるようになった気がしますね。
山田:昔は「音楽はこういう方向でいく」という縛りが、ある程度強かった気がします。でも今は、その方針はきっかけでしかなくて、そこからどう新しいものを生んでいくか。アーティストパワーを利用するとか、プロデューサーとかけ算して化けさせる、みたいなことがすごく重要になってきているんじゃないかな、と。
福島:確かに10年くらい前は、既存の有名曲をたくさん使っていましたよね。コンピなどもたくさん出ていましたし。でも今はなかなか曲単体でインパクトを残すのは難しいから、アイデアのかけ算で、今までになかったアレンジや「あの人が歌っていたんだ!」みたいな驚きが必要。
緑川:それは、すごくいい傾向ですよね。僕はつい石橋を叩いてしまう派なんですけど、最近はそうじゃないところに可能性があると思っていて。若いときは、作家さん(作曲家や音楽家など)とやりとりをしていても「思った通りにこないな……」なんて感じることが多かったんですが、最近はそのほうがむしろ面白い。
山田:わかります。僕も自分の昔の作品を聴くと、完成度はすごく高いんだけど、ざらつきがなくてつまらないんですよ。だから最近は、作家さんを泳がせるというか、少し乱暴に発注してみたり。みなさん回転が速い人たちなので、あまり言いすぎると言葉にとらわれちゃうので。
福島:僕らも感動していたいんですよね。音楽って、広告の要素の中で一番曖昧な部分だと思うんです。セオリーに則ったよくできた曲よりも、「なぜだがよくわからないけれどいい!」っていう気持ちの部分を実は期待されている。だから作家さんがオーダーを飛び越えた曲をつくってくれると、こちらもすごく上がります。
山田:1回聴いてじっくり考えて、ちょっと時間をおいて、また聴いて(笑)。
KATSUYA YAMADA'S WORKS

キリンビバレッジ/キリンレモン

ベネッセコーポレーション/しまじろうのわお!

NTTドコモ/Style'20

九州旅客鉄道/九州新幹線全線開業

映画『WE ARE LITTLE ZOMBIES』
選曲屋ではなく「つくり手」
福島:ちなみに今、アメリカのCM音楽は、ストックミュージックの台頭で価格破壊が起こっているみたいなんです。でも日本はオートクチュールというか、「面白いものをつくるぞ!」という意識が高い。安易に既存の曲を使っても効果が出にくいとか、相互理解のないタイアップは意味がないとみんなわかってきたし、つくり手としてはやりやすくなってきた気がします。
山田:これまでのやり方が少し窮屈になったんでしょうね。僕が会社に入ったばかりの頃に言われたのは、「選曲屋じゃない、僕らはつくり手だ」。つまり、ある曲を整えて出すだけ、というのはやめたほうがいいと。それから1回、形をきれいに表現する時代が来て、今はそれを壊して、さあどうするっていう段階だと思うんですよね。
福島:僕もそれは感じています。
山田:そこで、アーティストの出番だと思うんです。彼らの、ある種人生をかけた芸術性というのはすごく重要で、言葉は悪いかもしれないけど、僕らはそれをうまく利用する。ただ向こうは自己表現、こっちはCM音楽としてどう形に収めるかが仕事だから、ぶつかるんですよ。
緑川:プライドもありますし。
山田:正直、気が合わないと思う人も多いけれど、つくるものがすごいから、そのほうがむしろ惹かれちゃう。それに根気よく付き合って着地させるっていうのが、音楽プロデューサーの仕事だし、人を感動させたり動かしたり、そういう仕事を僕らはやらなきゃいけないんじゃないかな、と。ちょっと偉そうですけど。
小澤:CMプロデューサー側から見ると、音楽に対する考え方が変わったとは、それほど感じてないんです。ただ、わかりやすいタイアップは減ったという印象はあって。
福島:タイアップというのは本来、クライアントとアーティスト側に相乗効果が生まれるものですよね。映像の企画とはそぐわない内容の新曲を借りたり、セリフが多くて音を打ち消しあうようなものは、タイアップとは呼べないのでは?
緑川:僕もあまり手がけることはないんですが、最近だと、竹原ピストルさんに詞と曲を書いてもらった住友生命の「1UP」。
泉家:アーティストに頼むと、直しをお願いしづらいというイメージもありますよね。
緑川:正直なところ、そうなんですよね。あのときは、最初から2曲つくってもらえたうえに、歌詞もクリエイティブディレクターの麻生哲朗さんのコンセプトに合わせて考えてくれて。最終的にはすごく良好な関係でつくることができました。
泉家:それが一番いい形なのかもしれないですね。ぶつかったり試行錯誤して、その先に何かすごい絆が生まれるっていう。
必要なのはコミュニケーション
小澤:極端にいえば、音楽プロデュースを誰に頼めるかということが重要なんです。作家を選ぶセンスとか、監督とのコミュニケーションとか、上がってきたときの驚きとか、全部含めて信頼してお願いしています。
泉家:このお三方は安心感がありますよね。
福島:僕は、プロデューサーの能力の半分くらいはコミュニケーションだと考えています。そもそも音楽好きな人はコミュニケーション下手で、そのコンプレックスを音楽で表現している人が多いから。
山田:確かにそうですね(笑)。
福島:だからプロデューサーは、「今シンガーが乗ってきているな」とか、現場の空気を察知してコントロールしていく能力が高くないといけない。今回、山田さんとお話するのは初めてなのですが、いろいろな方からすばらしいエピソードをいっぱい聞いていて……。
小澤:伝説の「秒数超え」ですか!?2秒くらいのサウンドロゴを発注したら、1分であがってきたという。
山田:かなり前の話なのですが、自信満々に「聴いてください!」って持っていったら、みんな黙ってしまって。ニコニコしていたのは監督だけでしたね。「こいつやったな」みたいな。
福島:でも僕は逆に、作家さんが15秒のCMなのに16秒くらいでフッと音を止めたら、しゅんってなりますね。尺外でも曲として気持ちよく終わってほしい。
山田:僕もそのタイプなんですよ。ワンフレーズ2秒でつくっていたし、自分の中ではどこを使うかも決めていて。長く聴いてもらったほうが理解しやすいかなと思っていたんですけど、説明がなかったからむしろ混乱させたっていう。いまだにこの話は、ずっとネタにされています(笑)。
緑川:僕はどちらかというと、かっちりつくっちゃうタイプですね。
山田:なかなか緑川さんみたいにできないというか、なんかちょっとひねっちゃうんですよ。そういうのを求められているときはいいんですけど、とくに素直なコマーシャルソングのときにすごく迷う自分がいる …