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青山デザイン会議

作り手と買い手の新しい出会い方

池田功、北島勲、野村由芽

インターネットを介して、いつでも気軽にものが手に入る時代だからこそ、顔が見える相手から直接買いたい、大量生産されたプロダクトではなく一つひとつ丁寧につくられたものを使いたい……。ハンドメイドやクラフトが人気を集め、作家から直接購入できるイベントやネットショップが当たり前になった今、ものとの出会い方、そして売り手と買い手との関係は、少しずつ変わってきているようにも感じます。

今回集まっていただいたのは、5組の作り手の工房を兼ねたショップ「アトリエテンポ」で、ペットグッズを扱うdogdecoを営む池田功さん。「もみじ市」「東京蚤の市」をはじめ、クラフトを中心に第一線で活躍する作家が集まるイベントを数々手がける手紙社の北島勲さん。そして、自分らしく生きる女性を祝福するライフ&カルチャーコミュニティ「She is」の編集長 野村由芽さん。それぞれ異なる立場の3名に、現在のムーブメントやマーケットの広がり、作り手のブランディングやプロモーションまで、さまざまなお話をうかがいました。

Photo:amana photography Hiyori Ikai for BRAIN Text:rewrite_W

一番のプロモーションツールは作家さん

北島:僕たち手紙社がやっているのは、大きく分けるとお店とイベントの企画。調布と鎌倉にカフェと雑貨店があって、最近立川にも飲食店をつくりました。もうひとつの柱であるイベントは、2006年にスタートした「もみじ市」が最初で、そこから派生して「東京蚤の市」「布博」「紙博」といったイベントを主催しています。

野村:ずっと「すごい!」と思っていて。

池田:私たちも西側なので、その話ばかり(笑)。回を増すごとにお客さんも増えて?

北島:そうですね。最初は器屋さんの店主とかクラフト好きな人とか、コアなお客さんがメイン。それが最近、銀行の窓口に私用で相談に行ったら、担当の若い女の子に「東京蚤の市、行ってます!」と言われて。裾野が広がっているのを感じます。

野村:その流れは想定していたんですか?

北島:まったくしていないし、望んでもいなかったんです。今も僕たちは、マスになっては絶対ダメだと思っていて。最近は"手紙社沿線"と言っているんですが、つまり「こういう世界が好きな人たち」に向けたサービスをつくり続ける、というのが基本。もちろん、いろんな人がイベントに来てくれるのは作家さんにとってはいいことなので、ジレンマもありますが。

池田:僕は、もともとは関西でペットグッズのショップを始めたのがきっかけで、もう創業20年になります。ペットグッズといっても、ライフスタイルの一環として提案していて、人が使うものと同じ立ち位置であることが前提。それから2009年に、小金井市に自宅兼店舗をつくって、近所の仲間と「はけのおいしい朝市」を始めたところ、すごく好評で。ちょうど中央線の高架下を地域の人が集まれるスペースにしたいという話があって、2014年に作家さんたちとシェアする形で、工房とお店が一体になった「アトリエテンポ」をつくりました。

野村:私は、同僚の竹中万季と一緒に「She is」というWebメディアを立ち上げました。もともとCINRA.NETの編集をやっていたんですけど、女性の生き方やこれからの働き方を考えるときに、数や声の大きさに左右される場所づくりではなく、もっと一人ひとりの声を集める場をつくりたいという気持ちがふつふつと……。

池田:自主的に立ち上げたんですか?

野村:はい。竹中とは、深夜2時とか3時のファミレスのおしゃべりみたいなことをずっとしていたんです。こういうことを考えている人って他にもいるよねって。今は、一緒に企画や発信を行う約180名の「Girlfriends」を中心に、有料メンバーのコミュニティをつくっています。Webメディアというよりは、緩やかに集まれる場所ですね。最初は25歳から35歳くらいがコアの層だと思っていたんですけど、高校生から40代くらいまで広がっていて。

北島:イベントをしていても感じますが、マーケティング的なF1とかF2層で切れなくなっていますよね。年齢とか性別は関係なく、ある世界観を共有する人たちがいる。

野村:「魂」というか。She isを立ち上げたときに、うちのおばあちゃんが「何歳になってもこういう精神を持っている人はいるよ」と言ってくれて。手紙社さんは、オンライン上のコミュニケーションはせずに、あれだけの人が集まるんですか?

北島:そうですね。最初は趣味で、ビジネスにするつもりは全然なくて。僕たちのイベントは公募は一切していなくて、自分たちでいいと思う作家さんを選んでいます。もっとも大事にしているのは作り手であり出展者。作り手が一番のコンテンツであり、プロモーションにおいても、イベントのために作り手が真剣に宣伝してくれたら、それに勝るものはない。

池田:僕らも、「家族の文化祭」というイベントを開催していますが、メンバーのつながりの中でいいと思う人だけに声をかけています。そのおかげで、うまく盛り上がりをつくれているというのはありますね。

北島:たぶん、野村さんがやっているのもそうですよね。僕は正直、She isを知らなかったんですが、すごくいい空気感が漂っていて。うちのスタッフに聞いたら「いつも見てます」という子が何人もいて、こっそり有料会員になったんですけど(笑)。

野村:Webメディアはたくさんありますし、どうしてもPVとか即時性が重視されがち。もっと心がホッとしたり、明日も大丈夫って思えるような居場所がつくりたかったんです。自分が10代の頃は、雑誌などでそういう体験をしていましたが、社会に出て役割を持ったり、結婚したり親になったりしたときに、「こういうふうに生きたい」とか「これが好きだ」みたいな、自分のゼロから1の始まりの場所というか、本質的な部分を押し殺しているんじゃないかな、と感じたのがきっかけです。

北島:今、「居場所」という言葉が出ましたが、まさにそういうものを求めている時代なんでしょうね。

野村:She isという場所と、緩やかに共鳴してもらえる関係性をつくれるように、最初はほぼすべての人に会って、手づくりの招待状を渡していました。メールマガジンも友だちからの手紙みたいな感じにして。コミュニケーションの量はそれほど多くないですけど、一つひとつが揺さぶられるようなものになるように工夫しています。

池田:勉強になるなあ(笑)。

    ISAO IKEDA’S WORKS

    dogdeco happy week
    dogdecoが企画運営する、犬や猫と暮らす人のためのイベント。人気ブランドの商品が多数集まるほか、オーダー会なども。2019年7月10日(水)から16日(火)まで、伊勢丹新宿店 本館5階イベントスペースで開催。

    dogdeco×TEMBEA キャリーバッグ
    バッグブランドTEMBEAと共同開発している愛犬用のキャリーバッグ。写真の新モデルは、中にビニールコーティングが施され、汚れに強いのが特徴。

    PORTER(写真)ほか、サンフランシスコのGEORGE、台湾のSPUTNIKなど、人気ペットブランドの首輪やハーネスも扱う。

    丹波地方に生息する野生の鹿の肉を48℃未満の低温で1カ月近く乾燥させた、栄養たっぷりの愛犬用おやつ「野生鹿シリーズ」。

    オーガニックフードはもちろん、シャンプーやコンディショナー、虫よけスプレーにブラッシングスプレーなど愛犬用のケア用品も多数。

    アトリエテンポ(atelier tempo)
    dogdecoのほか、シルクスクリーン版画や雑貨を扱うヤマコヤ、革小物のsafuji、セミオーダーの靴屋coupé、あたらしい日常料理 ふじわらが入居。東小金井駅 高架下の商業施設「コミュニティステーション東小金井」内にある、5組の作り手の工房を兼ねたショップ。

    家族の文化祭
    地域で暮らし営む仲間を「かぞく」と捉えた、大人も子どもも一緒に楽しめるイベント。コミュニティステーション東小金井を中心に開催され、アトリエテンポをはじめ約30店が出店、毎回5000名以上が訪れる。

    絵とデザイン ヤマコヤ

    safuji

    coupé

    あたらしい日常料理 ふじわら

大切なのは、場所ではなくストーリー

北島:池田さんは、小金井周辺の「地域」をとても大事にしていますよね?

池田:暮らしながら、楽しみながら働ける環境をつくっているという感じですね。僕自身、地域での活動は仕事でやっている感覚は全然なくて、自分が楽しみたいから、この場所をつくったようなもので。好きな作家さんと一緒に仕事をして、意識を高めて、みんなでお客さんを呼んで商売をする。やっていることは全然違うんですけど、なんとなく共通点もあって。

北島:今もお店がメインなんですか...

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