2012年に設立し、テレビCMやWeb動画、ドラマ、テレビ番組など多彩なジャンルの実績を重ねながら成長中の映像制作会社エルロイ。その成長の背景には、現場を何よりも大切にするトップの経営方針と、そのための独自の組織体制がある。
映画の「組」を見本にした独自の制作組織
演出/プロデューサーの和田篤司さんが2012年に設立したエルロイは、映像を「つくり方から変えたい」という思いから立ち上げられた映像制作会社だ。
「元々、僕はCM制作会社TYOのプロダクションマネージャーから映像制作の世界に入ったんです。その後2006年にサイバーエージェントに転職し、動画専門チームの立ち上げをきっかけに、バイラルムービーの制作にも携わりました。YouTubeがちょうど出はじめた動画黎明期の頃です。その頃、一眼レフカメラでも動画が撮れるようになり、低予算でムービーが作れて、無料のメディアで流せるという認識がクライアントに広がっていたのですが、その要望に対応できるプレイヤーがあまりいなかった。つまり、CM制作会社に頼むとテレビCM仕様になって制作費が高くなりすぎるんです。そこで、制作会社のプリプロダクション(脚本、絵コンテ、各種リサーチ、スタッフ・キャストのスタッフィング、ロケハンなど映像制作における撮影前の作業の総称)の厚みはなるべく失わないまま、スピードやコスパ感を高めて映像を提供しようと立ち上げたのがエルロイです」。
その実現のために、エルロイでは日本映画の「組」(同じ監督の作品に同じ顔ぶれのスタッフが毎回参加する、映画撮影のチーム制度)に倣った制作体制を取っている。つまり、一般的な映像制作会社は演出、カメラマン、撮影機材、ポスプロなどをつど外注するが、同社ではすべてのスタッフや機材を社内に抱え、企画から納品まで社内で一貫制作しているのだ。
「外注すると、映像のプロであるべき制作会社にノウハウが残らないんです。これがプロダクションの構造的な問題だと感じていて、エルロイでは映画の『組』のように同じスタッフが制作に臨み、社内にノウハウを蓄積しスキルを高めることで、高いパフォーマンスが継続できるチームを目指しています」。その方法は徹底しており、コンテもコンテ会社に発注せず社内のデザイナーが描き、CGも社内の編集部で制作し、また4Kカメラをはじめとする最新の撮影機材も自社で取り揃えている。
社内には「企画デザイン部」「プロデュース部」「制作部」「撮影部」「編集部」の5つの部署があるが、互いに領域をカバーし合いながら、全員でアウトプットへと進んでいくのもエルロイの特徴だ。例えば企画会議でカメラマンやエディターがプランナーを超える本数の企画を出したり、制作部が不安に感じたらすぐに撮影部とカメラを持ってテスト撮影に行ったり、指示を受ける前に編集部がコンテをつないでビデオコンテを作る、カメラマンがオフライン編集を見て意見を言い、プランナーがカラコレに注文をつける…そんな風景が社内では日常的に見られる。
全スタッフがワンフロアで仕事をしている環境は、毎日がメインスタッフ打ち合わせのようなもの。トライ&エラーを繰り返しできる環境が、作品のスピード、コストパフォーマンス、完成度のすべてを高めていく。
案件成立から納品までの一貫体制(Integrated workflow)
一般的な映像制作会社は演出、カメラマン、撮影機材、ポスプロなどをつど外注する(左)が、エルロイではすべてのスタッフ(および機材)を社内に抱え、企画から納品まで一貫制作する(右)。それにより、スピード、高いコストパフォーマンス、層の厚い制作体制が実現する。
各種設備・最新機材を社内に集約
エルロイでは、東京・中目黒のオフィスビル内に、撮影ができる多目的スタジオや編集室、機材・制作倉庫を持つ。1つの場所に機能を集約させ、スピーディで柔軟なワークフローにつなげる。機材はRED EPIC DRAGON(6K対応カメラ)、SONY FS7×2台を所有し、すべての撮影を4Kワークフローで行っている。
得意分野に偏りは作らない どんな相談にも対応できる存在でいたい
「エルロイの仕事には、いい意味で色がついていないし、つけたくないと思っています。"感動モノが得意な会社"のように分野を絞り込むことで、消費されたくないんです。あえて言えば、映画出身のスタッフが多いので撮影日が長いものやドラマ的な作りのものは得意ですし、車を撮るのが得意なカメラマンがいるので、自動車のお仕事は多いですが、何でもご相談いただければ対応できる会社でありたいと思っています」と和田さんは言う。
その言葉通り、エルロイの仕事は現在Web動画が約5割、テレビCMが約3割を占めるが、ほかにも企業VP(商品紹介ビデオ、展示映像など)、MV、OOH向け、インナー向け、学校案内、工場紹介など多彩な映像制作を手がけている。クライアントも車、飲料、食品、カメラ、家電、化粧品、ゲーム、ファッションと多岐にわたり、手法もドラマ、シネマライク、ドキュメンタリー、番組風、インタビュー、シズルなど「手がけていない領域の方が少ないほど」だ。
あらゆる映像づくりのナレッジを社内に常に蓄積していくことで、人を育成し、多彩な表現の引き出しを持つ制作会社の強みを生み出している。クライアントやエージェンシーの多様な要望に柔軟に応える制作パートナー、そして進化し続ける映像クリエイティブの職人集団でありたいと考えているという。
常に"現場ファースト"の組織であることを追求
エルロイでは常に"現場"が会社の中心にある。映像制作現場のあらゆる「負担」や「困難」を自社の経営課題と捉え、そこに最優先で取り組むことで、常に最適な制作環境を実現してきた。
「これまでさまざまな映像制作の現場で感じてきた矛盾や不合理を1つひとつ解消することで、現場がモチベーション高く作り続けられる制作環境づくりに注力してきました。例えばスタッフの働きすぎを抑制するために、社員全員の稼働状況がリアルタイムで把握できる制作管理システムを開発したのもその1つです。これによって労務・顧客・売上を連動させて複合的に管理できるようになりました。また、所有する機材は毎年一定額の設備投資をすることで常に最新のものに保っています。それらのすべてが映像クオリティの向上につながっていくと考えています」。
ほかにも、座学とOJTを組み合わせた独自の社員育成プログラム「ellroy アカデミー」や、映画鑑賞代や参考書籍代を経費で落とせる「ellroy アシスト」、そして定期的な社員面談によって現場の課題発見・改善のサイクルも実現している。人と業界の変化に合わせて各種の施策を導入することで、現場の社員が「成果物のクオリティ向上」と「自己能力開発」に注力できるようにした。こうした仕組みを、前線となる現場を管理職や経営陣が支援する「逆ピラミッド組織」体制と和田さんは呼ぶ。
「映像制作の楽しさを、制作スタッフ全員が感じながら仕事ができるようにしたいんです。特にプロダクションマネージャー(PM)は、僕自身がPM出身ということもあり、クリエイティブを左右する重要な役割なのに軽視されがちなのが問題だと感じてきました。PMは連絡や調整に追われてスキルがドーナツ化し、映像の本当に楽しい部分だけを体験していない。それゆえに人が辞めていく悪循環を断ち切りたくて、エルロイでは待遇を向上し、制作の現場にも積極的に関わり、意見を出してもらうようにしています。ほかの職種も同じことで、職能は縦割りで切り分けられないと思っているので、1人1人が複数の役割を担いながら、担当領域を広げられるようにしています」。
スタークリエイターがその個人名で支えるような組織ではなく、こうした仕組みによって、会社として質の高い映像サービスを提供することを重視している。
映像制作現場に革新をもたらす存在でいたい
「プロダクション2.0」とも言えるこうした独自の制作スタイルを7年で築き上げてきたエルロイ。今後はどう進化していくのだろうか。「(2018年)年末のレコード大賞で、MISIAが『夢は歌い続けること』だと話していました。まさにそれで、エルロイの場合は『作り続けること』だと思っています」と和田さんは話す。続けて、「2025年以降は、組織の時代が来ると思う」とも言う。
「個が立ったプレイヤーが独立して活躍するスタイルがここ2年くらい目立ちますが、フリーには限界があると僕は思っています。自分の引き出しだけでは広がりがなくなり、やはり組織で人と仕事をしたいと考えるようになるからです。その時に、エルロイはいち早く、2020年代、2030年代にフィットする組織を確立していたい。それがブロックチェーン的な自立分散型の組織なのか、それともあえて封建的思想の組織を保ちながらアップデートしていく方がいいのか、まさに模索している最中です。来たるべき次の時代に最適な組織のあり方を探り業界に先駆けて実現していくことで、映像制作現場に革新をもたらす存在であり続けたいと思っています」。
エルロイ
2012年に設立された映像制作会社。少数精鋭の次世代映像制作会社の先駆けとして広告に限らず、映画、ドラマ、テレビ番組など多様なジャンルで実績を重ねる。社名は『L.A.コンフィデンシャル』などで知られる米国文学界の魔犬ジェイムズ・エルロイに由来。案件成立から納品までを一貫体制(Integrated workflow)でサポート。プロデュースカンパニーでありながら、企画会社でもあり、撮影技術会社でありながら、ポストプロダクションでもある。映像コンテンツの在り方が多岐にわたる中で、常に時代に求められる制作会社を目指す。