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青山デザイン会議

2019年、僕らの広告のつくり方

石原篤、橋田和明、川村真司、富永勇亮

2018年もさまざまなクリエイターがエージェンシーから独立し、新たなスタートを切りました。その中で、エージェンシーでもない、クリエイティブブティックでもない、デザインコンサルやスタジオでもない…これまでにない形のクリエイティブ組織が新たに生まれています。会社という組織に縛られることなく、つくり手同士がフラットな関係でつながり、一つのチームをつくり、一から仕事に取り組む。その目的は、クリエイティビティを最大限に使って課題を解決し、よりよいアウトプットを世に送り出すことです。

クリエイティビティを発揮しててよいアウトプットを生む、つくり手としてあたり前とも思えることがなかなかできない、いまの日本の広告界にはそんな現状があります。そこで今回は、2018年に博報堂ケトルから独立した石原篤さん(ISHI Inc.)と橋田和明さん(HASHI Inc.)。そして2019年にこれまでにない新しい組織「Whatever Inc.」を立ち上げる川村真司さんと富永勇亮さんにご参加いただき、これからの広告、ひいてはクリエイティブのあり方を考えていきます。

Photo : amana for BRAIN

フラットなチームで仕事をする

川村:僕と石原と橋田は、博報堂の同期。僕は3年で辞めたけど、2人はなぜ17年目のいま、独立することにしたんですか?

石原:毎年2人で人間ドックに行っているのですが、その後に飲みながら1年間どんな仕事をしてきたか棚卸しをしていたんです。ここ数年は仕事のシェアだけではなく、今後どんな環境で、どんな仕事をしていくか、話す内容が変わっていったんです。

橋田:自分たちの次の挑戦を考えるときに、ケトルの中でやる、博報堂の別の部署を希望する、新しい子会社を構想してみる、独立する、みたいに、色々な選択肢を話しました。やりたい仕事だけではなく、やりたいことを達成できる環境はどこなのかということをセットで。

石原:僕らの師匠は、ユニットでクリエイティブブティック 博報堂ケトルをつくり上げた嶋浩一郎さんと木村健太郎さん。当初は2人の師匠が築いたモデルで、2人で一つの会社をつくろうと考えました。設立準備を進めながら、広告業界だけでなくさまざまなな業種の方に独立の形について相談していたんです。その中で「屋号を連携させながら別々の会社をつくり、それぞれの会社にお互いが取締役で入る新しいモデルの会社」というアイデアが出た。それで一つの会社ではなく、同じオフィスで「兄弟会社」という道を進むことにしたんです。

橋田:コピーライターとアートディレクターなど補完関係があるコンビで独立する例はあったけれど、僕はストプラベース、石原はプロモーションベースと違うものの、どちらもクリエティブディレクターとして仕事をしていたので、役割がかぶっていました。だから2人の魂や意志は1つだけれど、それぞれが会社をつくった方がいいのではないかという結論に至りました。ただ、別会社なのですが、同じオフィスでコミュニケーションをとりながら「最近のお前の仕事ダサくない?」とお互いに監視したり、近くにいてシナジーを生む、それが兄弟会社の醍醐味ですね。

石原:社名は僕のほうが「14」(ISHI)で、橋田が「84」(HASHI)にしました。以前から「84と打ち合わせ」というように数字をコードネーム的に使っていたのですが、それが兄弟会社として屋号を連携することにもつながる。それに僕らは会社を大きくしたいわけでなくて、個人を横につなげて広げていきたい。将来的に僕らの考えに賛同して参加してくれる人が増えたときも、この番号制はいい記号だなと考えました。

富永:横のつながりを広げていきたいと思うようになったのはなぜですか?

橋田:多くのエージェンシーではこれまでの慣例で、クライアントから仕事を受けると、企画して、プロダクションに発注して…と受発注のピラミッドが確立しています。僕らもその流れの中で仕事をしてきたわけですが、そうではなくオリジナリティのある個人、あるいは会社とフラットな関係性でチームを組んだ方が、チームとしても強くなるし、よい結果を生むのではないかと考えるようになりました。

それこそ富永さんと仕事をしたとき、僕はエージェンシーという立場でしたが、企画から実現まで一から一緒に考え、そこに映像制作会社やイベント会社なども加わってワンチームになった結果、よいアウトプットを生みだすことができた。そこに、これまでにないダイナミズムを感じることができましたし、何より、楽しかった。

富永:確かに橋田さんとの仕事は、みんなが本当にフラットでしたね。みんなが持ってきた企画をCDの橋田さんだけが判断するのではなく、全員で判断する。そこに上がってきた企画の中からよいところを取り出しては、他の企画と合体させていった結果、「さわれる検索」や「トレンドコースター」が生まれました。

橋田:僕らの仕事は「毎回違う領域のアウトプットを生む可能性が高い」ということも大きいですね。毎回同じ、例えばCMをつくることがメインであれば、すでにでき上がっているプロセスの中でつくり上げた方がいい。ですが、課題解決のために多種多様なアイデアを実現しようとすると、決まったプロセスの中でつくりあげるのは難しくなる。

自分の経験で言えば、珊瑚を植える職人や盲学校の先生など、普段仕事をするプレイヤーとは全く違う人たちと組むこともありますから。だからこそ横のつながりが必要になってくる。毎回新しいことにチャレンジして、新しい人やこれまでとは違う領域の人と得意先や世の中の課題解決するのはとても刺激的です。

石原:さらに言えば、僕らはCDだけどプロデューサーとして「チーム編成」も大事な要素になっています。気心知れた固定のチームがいいこともあれば、案件によっては会社や組織に縛られず大きくチームを変えたほうがいい。「チーム編成」から、もうクリエイティブが始まっているわけです。

橋田:これまでのようにCD、コピーライター、ADがいてと、ピラミッドではなく、みんな横でいいんじゃないかとも思うんです。受発注関係にとらわれない、リスペクトし合う「フラット」な横に広がるつながり。新しい会社では、その横の広がりで化学反応を起こして、いいアイデアといいアウトプットを生んでいきたいと思います。

    MASASHI KAWAMURA'S WORKS

    メルカリ/HELLO!NEW LOGO

    Max Mara Japan/I LOVE MAX MARA

    Dimension Point/Namie Amuro「Golden Touch」

    Nike/Nike Unlimited Stadium

    自社プロダクト「DISCO DOG」

クリエイティブを効率化させる組織形態

川村:いきなりだけど、実は僕と富永も2019年1月にdot by dotとPARTY NY、PARTY Taipeiを合併して新たな会社を立ち上げるのですが、いまの2人の話を聞いて、考え方がかなり近かったので驚きました。新しい会社では「クリエイティブ効率化」を裏のテーマにしていて、どうやったらもっと時間的にもお金的にもクオリティ的にも効率よく面白いものをつくれるか、そのことを重視しています。

大きな組織はどうしても非効率で足枷が大きくなる。だからあえてコアとなる組織は無理に大きくせず、人と人がフラットにつながり、必要に応じてスペシャリストを入れる形でチームをつくっていきたいと思っています。僕はPARTY NYとPARTY Taipeiでもそれを念頭に会社を設計してきたのですが、その結果「結局、人」であることに気づいたんです。

会社のブランドよりも、誰と仕事ができるかでアウトプットは決まる。PARTYでは内製できるスタッフが足りないという現状もあったので、そのスペシャリストとして富永たちdot by dotのチームと以前から仕事をしてきましたが、その流れの延長線上で、お金とか関係なくアライアンスを組むという実験をまずは始めました。僕がdotの仕事にCDとして入り、同様に富永はPARTY NYの仕事のプロデューサーに入るという形でやり始めたところうまくいったので、「じゃあ結婚してみる?」と話をして(笑)。

富永:でも、僕の中では結婚するには時間が必要でした。僕が出会った中で川村は最も優秀なクリエイターです。彼と仕事をするようになってから、僕は自分でCDと名乗ることを辞めたほど。それに僕がdot by dotを設立したタイミングで川村はPARTY NYをつくり、お互いの近況を話しあってきたバディのような関係なので、もし万が一解散するとなったら、逆にすごく辛いことになるなと思って。

それで、この一年間、お互いのプロジェクトに参加しながら、状況を確認することにしたのですが、確認すればするほど2つの会社は似ていて。PARTY NYは手を動かしたいエージェンシーで、dot by dotは考えてつくりたいプロダクション。つまり根本は一緒なので、僕らが合体するのは必然だなと思うようになりました。

石原:どんな社名になるんですか?

富永:「WHATEVER」です。僕らはエージェンシーやプロダクション、メディアアーティスト、デザインコンサルなどいろんな風に呼ばれることがあって、実際いろんな仕事ができる"何でも屋"なんです。社会にとって新しくて、意味があって、面白ければなんでもいい。それこそカンヌを席巻するようなキャンペーンからリリックスピーカーのような最先端のプロダクト、さらにはTシャツまで勝手につくって売っていたりします。

川村:日本語にすると「なんでも」「どんなものでも」という意味と同時に、「どうでもいいよ」「知ったこっちゃないよ」という意味もあるんです。どんなものでもハイクオリティに作れるという僕らの自負と、逆にレッテルとかカテゴリーとかそういうのってどうでもいいよねっていうアンチテーゼが同居しているのがいいなと思ったんです …

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