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デザインプロジェクトの現在

陰の中にある光やささやかな声を表現していきたい

長嶋りかこ

長嶋りかこさんの仕事は、ずっと気になっていたもののひとつ。骨太でありながら繊細、透明感と存在感が同居していて、その独自性に強く惹かれる──デザインの考え方を聞いてみたいと、お話を聞きにいった。

6月末に開かれるDESCENTE BLANC代官山店の水沢ダウン10周年記念の展示会のイメージ。

残布を空間の間仕切りとして魅せる

長嶋さんのオフィスは、原宿の老舗マンション「コープオリンピア」の一室。扉を開けるとメゾネット形式になっているコンパクトな空間が──1階は大きめの机と椅子が置いてあってミーティングができるスペース、2階が仕事場という構成になっている。どこかにざらりとした感触がありながら、人の息づかいが感じられ、すっきりした空気が流れていて心地いい。

現れた長嶋さんは、お腹がふっくら──10月に出産予定ということもあるのか、温かいエネルギーに充ちている。鈴の音のような声とにっこり笑顔で、まっすぐな話を語ってくれた。

最新の仕事は、「DESCENTE BLANC(以下、デサントブラン)」代官山店にて行われる水沢ダウン10周年を記念した展示会。「BLANC」が空白、無地、白紙を意味することから、スポーツシーンに寄添うだけではなく、ライフスタイルをベースに、リラックスした空白の時間に寄り添っていくことを目指したブランドだ。ショップ空間を建築家の長坂常さんが、グラフィック関連を長嶋さんが手がけてきた。

今回の展示会は、水沢ダウンの過去10年にわたるアーカイブと、最新作の双方を見せたのだが、長嶋さんは空間演出にかかわった。もともと長坂さんが作ったショップは、天井部分をストックルームとして使えるように、什器を上下させることで「しまう」と「隠す」機能を備え、有効に空間を使うユニークなもの。

今回の展示に当たっては、中央部分に四角いスペースを設けることにした。そこに、「ウエアを作った残布を使って何かできないか」と考え、残布を取り寄せたところ、さまざまな布の断片が大量にあった。「これを見せよう」と、短冊状の布を連ねて垂らして間仕切りにし空間を作ることにした。残布の組み合わせをデザインしながら、手仕事で作り込んだという。

聞いていて、最先端のテクノロジーが盛り込まれた布が、長嶋さんの手によって、もう一度織られたオブジェなのだと思った。そして、あえて意図を伝えなくても、残布を美しく生かす楽しさ、ものを大切に使い切る意味、ハイテクと手仕事それぞれの大事さ、もの作りの背景にあるストーリーなど、見る人の気持ちに、これは何らかの刻印を残すに違いない。とともに、企業が向き合っていかなければならない課題でもあり、その意思をさりげなく表現することにもつながっていくのではと、勝手に想像をふくらませた。

根っこにある意思やプロセスを知ること

「デサントブラン」も含め、長嶋さんの仕事は平面のグラフィックに限定されることなく、「Human Nature_産(むす)び」など、空間にかかわる立体や、アート的なものが少なくない。それは、広告会社時代の仕事とどこが違うのだろうか。「今思うとあの頃にやっていた仕事は、いわば最後の表層的な"包装紙"的役割のところだけ。デザインする対象への追求、ものづくりの現場に対する探究も浅かったです」と長嶋さん …

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