建築家の平田晃久さんは、緻密な発想をもとに、ユニークな造形を作り上げていく──その過程の話を、いつも面白く聞いてきた。今年は、村野藤吾賞を受賞し、ギャラリー「間」では、7月15日まで展覧会が開催中だ。最近の仕事のあれこれを聞きに行った。
街を歩くように回遊できる太田市美術館・図書館
平田さんの事務所は、青山の骨董通りから少し入った閑静なロケーション。展覧会に向けて作ったばかりという作品集を見せてもらいながら、平田さんの発想や仕事の進め方について、話を伺った。
近年の仕事のひとつに、太田市美術館・図書館がある。屋上に庭をいただいた建物の周囲を、回廊のようなスペースがぐるりと囲んでいる。「5つのコンクリートの箱が、ゆるやかなスロープでつながる。建築物のまわりに街があって、歩いて回れるような場」という発想から、ワークショップ形式で市民と話し合いながら、進めていったプロジェクトだという。
そういう場はともすると、皆がバラバラな意見を言って、収集がつかなくなるもの。その辺りを聞いたところ、「過程を共有することで、考えさせられるところがあったし、作り手の論理だけに拠らないアイデアを盛り込むことができた」という。例えば「美術館と図書館は一体となっていた方がいい」「屋上には庭園がほしい」などは、市民から出てきた意見でもあった。
取材後に早速、訪れてみた。写真で想像していたよりこじんまりしているが、個性的な造形は周囲から浮き上がったような独自性を放っている。入ってみると、回遊できる通路のようなスペースに、本棚がありスツールやソファが配されている。小部屋のようなスペースに、子ども用の本がぎっしり詰まっている。ふんだんな自然光が入り、緑がのぞめる場になっていて、解放的な気分でゆったり過ごすことができそうだ。
人が集っている、使っている──カフェでくつろぐ人、本を手にとって眺めている人、静かにおしゃべりしている人、デスクに座ってじっくり読み耽っている人など、街の中を歩くように館内を回遊し、自分の好きな場所で、好きなようにくつろいでいる。空間のありようが人をそうさせ、人の動きが空間を作っていると、心地よさに心動かされた。
「ジャングルの1本の樹には、数百もの生物種が棲んでいるそう。そういう『生態学的ニッチ(ある生物種が棲む環境のセット)』が多い状態を作ることも、僕が建築家としてやっていることのひとつであり、それぞれの人が居場所を見出せる場にしたかった」という意図通りになったことを、訪れ、使っている人たちの行動が実証していると感じた …