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青山デザイン会議

「いまどきの子ども」の視点

石井 原、全田和也、松本明耐

スマートフォンやタブレットをはじめ、デジタル機器があたりまえのように生活の中にある子どもたち。ベビーカーに乗っている小さな子どもですら器用にスマートフォンを操作します。そして、テレビではなくYouTubeを視聴し、将来なりたい職業には「YouTuber」が浮上。知りたいことがあれば本を読まずに検索するなど、いまの子どもたちは、大人たちが想像しえない行動が当たり前になりつつあります。

こうした現象は当然の進化ですが、一方でこうして育った子どもたちの考える力や発想力はどうなっていくのか。大人が当たり前と思っていたコンテンツを受けいれてくれない、そんなことも近い将来起こりそうです。そこで今号では、「『いまどきの子ども』の視点」をテーマに、さまざまな形で子どもたちと関わりのある皆さまに集まっていただきました。

子育てがきっかけとなり、現在「アドタイ」で「ヒーローたちの必殺マーケティング術」を連載中のアートディレクター 石井原さん、「学ぶ!未来の遊園地」などを手がけてきたチームラボキッズ代表 松本明耐さん、そして神奈川県逗子市でアートや野外遊びを積極的に取り入れた保育園を運営するごかんたいそう代表 全田和也さんに、それぞれが子どもたちと関わる中で感じたこと、考えたことを話していただきました。

Photo:parade/amanagroup for BRAIN

他の人と一緒に創造する楽しさ

松本:以前に全田さんが運営している保育園「ごかんのいえ」「ごかんのもり」を訪問したことがあるのですが、通常の保育園とは違いますよね。子どもたちが園舎に行かず、山を登ったり。「子どもにとってこれが正しい」ということではなく、全田さんが「子どもにこれをさせたらいい」という考えで保育しているので、子どもたちは完全に自由で、自然の中でのびのび過ごしている。

全田:子どもたちには、大人が先回りせず、最大限、見守るように向き合っています。できるだけ、こちらから一方的な指示を出すのではなく、子どもも大人も分け隔てなく、一人の人格として対話しながらくらしを積み重ねていきたいと考えています。安易にまわりの空気に同調するのではない、自分だけの色を誇れる自尊心を育みたいとの思いで取り組んでいますので、冗談半分で、よく「空気を読まない子を育てています」と言っています。

松本:自分の家の近所にあったら、間違いなく子どもを通わせると思います。

石井:僕は4歳の娘がいるのですが、そういう環境で育った子どもたちは、どんな風に成長するんですか。

全田:「ごかんのいえ」は設立して7年目で、最初の卒園生が小学校5年生になったところです。まだ大人になっていないので見えていないところもありますが、同じ世代の子どもと比べて自分軸を持っているように感じています。僕自身は「こうあるべき」という前提で子どもたちを型にはめたり、保育の教科書通りに子どもたちが動くことに、1ミリも喜びを感じていないんです。それよりも、日常のささいな場面で、園児が想像もつかないような面白いチャレンジをした!とか、あ、この子ってこんなことを言うんだ!という予想外の動きや発言に面白さを感じています。

だから、うちの園では子どもたちがケンカをしても最大限、止めません。もちろん怪我をよしとはしませんが、覚悟をもって、止めるのを我慢して見ています。そうすると、怪我がおきそうな手前で、年長の子がすっと間に入って、取り持ってくれて解決したりするんです。すべての子どもたちには、そうやって自ら育つポテンシャルがあることを実感しますし、そういった場面は日々のくらしにこそたくさんあります。

石井:僕は東京に住んでいるので、逗子のような環境にはないのですが、だからといって子どもがたくましくないかというとそんなこともない。うちの子はテレビを見るのが好きで、ヒーローものからYouTubeの映像まで、何でも見ます。YouTubeは玉石混合で中には親としてはあまり見せたくないようなひどいものもある。一方で、子どもがYouTubeを見ることを排除してはいけないという気持ちもあるんです。そういう映像を見ていても、いつか自分の中で淘汰していくから大丈夫、そういうたくましさがあるような気がしています。

最近は自然に触れる体験とデジタルの体験をあえて分けるのではなく、新しい体験をどれだけ提供できるかが親としてやるべきこと。デジタルとアナログ、どちらがいいということではなく、iPadを使って絵を描くことも、紙に絵を描くことも、どちらも体験として大事なことと思っています。

全田:僕も自分で保育園を始める前は、子どもがタブレットとかスマートフォンを使うのはどうかと思っていましたが、本質的な課題は別のところにあると感じます。YouTubeを見ている子の人間性が悪くなるかと言えば、単純にそうは言えず、むしろ、親や大人が子どもとどう向き合うのかがとても重要です。

例えば屋外で遊んでいるときに、子どもと一緒に泥だらけになって遊ぶ親もいれば、その横で子どもの様子に一切見向きもせず、ずっとスマートフォンだけを見ている親もいる。僕は親や大人がどういった原風景を見せていくのかのほうが非常に大事なこととして、問われているように思います。

松本:よくわかります。長男が3歳のとき、スマートフォンをずっといじっているのを見て、脳と指だけを使って何かをするのではなく、もっと身体を使って体験できるものはないのかと考え、つくったのが「お絵かき水族館」です。デジタルがいい、悪いではなく、むしろ他者との関係が生まれること、他の人と一緒に創造することが大事なので、さまざまな子どもたちが描いた魚が一緒に泳ぐ仕組みにしています。

石井:チームラボが掲げている「共創」をもう少し具体的に教えてもらえますか。

松本:チームラボは、そもそもがみんなでものづくりをする体制にあります。猪子寿之が代表としてディレクションしますが、さまざまなスペシャリストが集まり、ブレストをしてつくりながら、ひとつのものをつくりあげていきます。チームラボ自体が、異なる部分の創造性を持った人たちでチームを組んで結果を出していくという、壮大な共創の実験をしているとも言えます。

チームラボの組織は完全にフラットで役職はありません。プロジェクトごとにリーダーも役割も有機的に変わっていきます。そういうやり方が未来のモノづくりのひとつとしてあるのではないかと、僕らは考えているんです。

石井:広告の仕事は基本的にチームでつくるもので、チームラボと同じようにプロジェクトごとにメンバーが変わります。その中で最近思っているのは、そのスペシャリストがとてつもなく強い個性を持った人であればあるほど、チームは強くなるなということです。そういう人がいるほうが、共創も、表現もより面白くなる。

松本:共創においては、僕らも一人ひとりが強いほうがいいと考えています。

全田:僕も保育園のスタッフと話していて、同じように感じます。僕は岡本太郎を崇拝しているので、スタッフ一人一人に、もっとありのままの自分を表現していってほしいという思いで、日々、対話を続けています。おそらくチームラボの場合、個性の強いスペシャリストたちが議論してものづくりをするから、熱量が高いものができていると思うんです。そうでないと、きっと本当の意味での共創もできないですよね。

石井:広告業界でも似たようなことはあります。若い世代は特にスマートに仕事をするから、全田さんがおっしゃる"岡本太郎"的な個性や職人的な熱い追求をしていると、煙たがられてしまいがちです。

全田:いま社会全体がそうなっているのかもしれないですね。メーカーでも、サービス業でも稟議書を回して、誰にとっても平均的なものが仕事として組みあがっていく。そんな中で、チームラボはなぜああいう作品がつくれるんですか。

松本:僕らはあくまでもアートなので、マーケットを気にしていません。人間が本来持っているもの、特に身体体験をテーマに作品づくりをしています。チームラボの作品を体験してもらうことで、未来や社会がちょっとでもよくなる、そういうものをつくっていきたいと考えています。

6月に「EPSON teamLab Borderless」という施設をがオープンします。これまで共創をテーマにしてきましたが、そこに足りないと感じていたのが身体性。そのコンテンツの一つとしてつくったのが、「チームラボアスレチックス 運動の森」です。コンセプトは「身体で世界をとらえ、そして立体的に考える」。例えばぐにゃぐにゃの床の上で遊ぶ空間や3Dのボルダリングなど、空間認識能力を鍛えることができる「創造的運動空間」をつくりました。

石井:身体的な体験とデジタルな体験の融合は、これから確実に求められるコンテンツですね …

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