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青山デザイン会議

「ダンス」と映像、その可能性

菊池浩史/杉谷一隆/田向潤

いまさら語るまでもなく、ダンスブームが続いています。さまざまなタイプのダンスが流行る中、それに呼応するかのようにダンスを使った映像表現が増えて、話題になっています。ポカリスエットの高校生によるガチダンス、金鳥のカップダンス、Yモバイルの双子ダンス、クレディセゾンの社員による東池袋52…などのCMや地方自治体のPR動画、さらには「恋ダンス」以降のテレビドラマのエンディングをはじめ歌番組でも。最近では大阪・登美丘高校のダンス部も話題となり、プロ・アマ問わず、ダンスはいまや映像表現の核になりつつあります。そして2020年に向けて、今後ダンスを使った表現はますます増えていきそうです。

そこで今号では、映像におけるダンスの可能性ついて話し合ってもらいました。CMをはじめ、アーティスト、さらには中学校や幼稚園のダンスまで幅広い振付を手がけている振付稼業air:man 杉谷一隆さん、きゃりーぱみゅぱみゅのMVなどで知られるディレクター 田向潤さん、そして数々のユニークなCMを手がけているディレクター 菊池浩史さんが、話します。

Photo:parade/amanagroup for BRAIN

CMと親和性が高いダンス

田向:ここ1、2年で映像におけるダンスの有用性が上がってきていると感じます。15秒、30秒の短い尺で表現するのに、ダンスがひとつ要素としてあるとお得と考えるCMが増えていますよね。ダンスは表情やセリフの演技にプラスαを乗せることができて、演技をさらに増幅した1つの形にできるので、CMとの親和性が高いのだと感じています。

杉谷:振付稼業air:manの仕事で多いのもやはりCMですね。田向さんがおっしゃるように短い尺でインパクトや迫力をつけるという点で、CMにおけるダンスはわかりやすいと思います。全編で踊りが入ると少しえげつない部分もありますが、ピンポイントで入ると作品自体にメリハリが出ます。

菊池:昔からその時代時代で流行った踊りがあるので、とりわけ今ダンスものがブームという感覚は、僕にはありません。僕自身は仕事で出されたお題に対して、映像にすることを考えた時に芝居なのか踊りなのかは選択肢の一つです。ただ踊りものはわかりやすくてハッピーだから演出する上では好きですね。だから、ダンスのお題が来たら喜んで受けています。

杉谷:おっしゃる通り、ダンスの需要は2011年以降、緩やかに落ちている、もしくはあまり変わっていないイメージです。2011年は東日本大震災があり、ダンスで元気に、みんな1つにとキーワードが出しやすかったんだと思います。

そこから始まり、今はみんなで同じ動きをする「群舞」に魅力を感じる世の中になってきています。"みんなでダンス"というのは、東京オリンピックに向けてわかりやすい表現なのかなと思います。その結果、ダンスが流行っているように見えるし、わかりやすい派手な絵として需要が増えているのではないかと。だから、2020年まではダンスを使ったCMはどんどん増えていくと思います。

田向:表現は常にその時代のまわりの作品と相対的な評価を受けるので、増えすぎるとまた違うやり方を考えないといけないですよね。とはいえ、企画段階で僕が演出コンテを考えるときに、言いたいことがいっぱいあって、役者さんの表情もかわいく見せたいというときは、僕のほうから「踊っちゃえばいいんじゃないですか」と提案することもあります。歌にして踊ってしまえば、短い時間の中でも伝えやすいんです。

杉谷:お2人とはこれまで一緒に仕事をさせていただいていますが、踊りが必要ということを明確にされている。でも、最近は踊りが入る必要のないCMが増えている気がして、少し懸念しています。

プロとアマの境目がなくなっている

菊池:僕はそこまで踊らないだろうと思われている俳優やタレントさんにグリグリ踊ってもらうのが好きです。そういう違和感が出たほうがCMは面白いと思うからです。だから頑張らないとちょっと無理めな振付を杉谷さんにつくってもらうんです。「この人がこんな踊りをしたら面白い」という理想の振付をつくってもらい、相手に渡して「どうですかね?」と反応を待ちます。そうすると意外にもみなさん面白がって、踊ってくれる確率が高いんです。

田向:「踊らない人に踊らせる」という経験でいうと、僕の場合はくるりのPV「Liberty&Gravity」。実際にやってみたら、ダンスもとても良かったし、面白い仕事でした。上手なダンサーは魅力的ですが、ダンサーじゃない人が踊るダンスは一所懸命やることが絶対条件です。でも、それがまた大きな魅力になるんです。

その例でいうと、Fatboy SlimのPV「Praise You」(監督:スパイク・ジョーンズ)。ロサンゼルスにある映画館の外でゲリラ撮影されたようなのですが、あるダンスグループが「Praise You」の合わせて踊りまくっています。劇場の従業員が音源を止めるのだけれど、またスイッチを入れて。普通のおじさん、おばさんがひたすら踊りまくっているだけの映像なのですが、僕はすごい衝撃を受けました。下手だけど美しいんです。ダンスってこういうことなんだと、気づきがありました。

菊池:頑張っている感じは、確実に画に出ますね。本気度が現れるから、見ている側も楽しくなるのだと思います。

田向:今は昔と違って、「頑張っているな」という感覚も、エンタメのひとつとして成り立つようになりましたよね。ここ10年で演者とテレビの前にいる人の距離が近くなり、コンテンツが完成された、いわゆる"ショー"ではなくなってきています。

杉谷:特にこの10年はみんな自分と近しいものにシンパシーを感じるようになっていますね。air:manはいま7名いて、全員でひとつの振付を考えるのですが、最近、僕と若いメンバーの間で「かわいい」という感覚がかい離し始めました。

若いメンバーが「かわいい」という振付や表現を見ると、それはかわいいというより、「君たちのことじゃないの?」と思うんです。突き詰めて考えると、その映像を見たとき「私自身が変わっていけそう」な感じ、「自分と近い」ことが重要な要素になっているんです。だから圧倒的なショーではなく、プロというよりもアマチュアに近いダンスが多く出てきているのではないかと思います。最近話題の登美丘高校ダンス部にしても、自分たちに近しいけれどすごい、私たちもやってみようと思わせるものが人気になっていますよね。

田向:確かに「かわいい」は変化していますね。僕は踊る必然性がない人に踊りを要求する場合、ダンサーみたいなダンスは全く求めていません。むしろそういう踊りこそがチャーミングになるから大好きなんですが、それを世の中の人も「かわいい」と思ってくれるような時代になってきたなと感じています。

菊池:以前はそんなことなかったですよね。YouTubeで「踊ってみた」が出てくる前のCMは、ダンスにもっと高いレベルが求められていたんだろうなと思います。下手だったら絶対に踊らせなかったり、できるだけ下手に見せないように演出したり、厳しくつくられていたような気がします。

杉谷:ダンスの振付を考えるときはパキパキ踊るのか、ゆるく踊るのかを考えるもので、以前は「振付を間違ってもいい」という明確な意図が前提にあったうえで「ゆるかわいい」になっていました。でも今は意図をしてそうするというよりも、許容範囲が広がったのか、あるいはそうではなくなってきていると感じています。「踊ってみた」が出てきて以降は正解があるのかないのか、わからない状態で、ダンスに関してはプロフェッショナルではなくなってきています。

でも、それはよいことではないのかもしれません。登美丘高校ダンス部のようなアマなのにプロ以上という人たちが出てきて、前よりもダンスの受け皿が広がったことはよいと思いますが、ブームとしてダンスを捉えようとしている点は心配ですね …

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