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青山デザイン会議

アニメーションコンテンツの潜在力

金苗将宏/斎藤朋之/齋藤陽平/山本幸治

ジブリ作品にはじまり、近年は『君の名は。』『この世界の片隅に』など大ヒットするアニメーション映画が続々と生まれている。また、テレビにおいても、子ども向けのものだけではなく、深夜枠のアニメーションも人気を集めている。こうした傾向と共に、近年広告の世界においても、CM等でのプロモーション動画にアニメーションを使うケースが増えている。トライのハイジシリーズ、日清食品「カップヌードル」アオハル、アフラックやYKKの動画、さらには丸井がアニメCMの声優を募集したり、「ごはんですよ」のアニメーションの復活など、話題は尽きない。

広告コミュニケーションにおいて、なぜいまアニメーションを活用する動きが出ているのか。今回の青山デザイン会議では、このテーマのもと、アニメーションの現場に携わる4人の方に参加をいただきました。スタジオコロリド 制作プロデューサー 金苗将宏さん、長年にわたりアニメーションの企画に携わってきた電通 プロデューサー 斎藤朋之さん、広告クリエイターの立場からアニメーションを使った企画を提案しているアートディレクター 齋藤陽平さん、そして深夜アニメーション枠「ノイタミナ」初代編集長であるツインエンジン 山本幸治さんです。

Photo:parade/amanagroup for BRAIN

『君の名は。』がもたらしたアニメ業界の変革

金苗:僕が制作プロデューサーとして働いているアニメーションスタジオ「コロリド」では、映画と広告という2つの制作の軸があります。最近、特に増えているのが広告の依頼。同時に、映画も『君の名は。』の大ヒットのおかげもあって、業界には映画製作のニーズが高まっていますが、制作できる人材が不足しています。

齋藤陽:以前からアニメの盛り上がりはすごかったのですが、『君の名は。』の効果でアニメがさらにメジャーな存在になった気がします。僕は広告会社のアートディレクターなので、アニメ表現のクリエイティブ企画をクライアントに提案するのですが、以前よりアニメの企画を真剣に聞いてくださるクライアントが増えました。逆に「アニメーションで広告をつくりたい」と求められることも増えました。

山本:広告におけるアニメの活用は、今に始まったことではありません。かつて日清カップヌードルのCMでは、大友克洋さんとオリジナルアニメをつくって話題を集めるなど、日本から海外へというジャパニメーションでの活用がありました。それから一部の層に向けて、コアなアニメを活用するケースもありました。

でも、『君の名は。』で何が一番変わったかと言えば、アニメをカジュアルなところにまで広げた。多くの人のアニメに対する意識を変えた、ということです。かつてはナショナルクライアントに深夜アニメのタイアップの提案をしても決まったことがほぼありませんでした。アニメが人気といっても、企業のトップが思い浮かべるのは、やはり『ドラえもん』や『名探偵コナン』など、全国ネットで長く続いているアニメ。一口に「アニメ」と言っても、年齢が違えば、思い浮かべるものも、受け止め方もまったく違いますから。

斎藤朋:同感です。僕は99年からアニメに携わってきましたが、以前は「アニメはアニメが好きな人のもの」という感覚が、業界、クライアント、見る側にありました。そのため、アニメを販促プロモーションに使うことをリスクに感じていた企業も多かったのではないかと思います。でも、最近はその垣根を越え始めましたね。例えば『おそ松さん』。どちらかというとアニメファン向けの作品ですが、人気に火がついてからは、実に多くの企業がプロモーションに活用しています。

金苗:一方で、アニメのつくり方自体は大きく変わっていない中、広告のクライアントから「『君の名は。』のようなものをつくりたい」というオファーも増えました。『君の名は。』は世の中の話題を集めたこともさることながら、やはり新海誠監督がつくる映像美が大きな魅力です。でも、現場からすると新海監督のフィルムは高レベルの技術があるからで、一朝一夕に実現できるものではありません。

また、僕らコロリドとはテイストが違うので、そういう依頼は、クライアントのオーダーに応えることができるのかどうか慎重に検討していますね。

齋藤陽:アニメを使った広告を制作するとき、いくつか課題に感じているところがあります。1つめは、実写とアニメ制作のスケジュール感の違い。どうしてもアニメ制作は実写のCMよりも、長い制作期間が必要になります。

2つめは、制作途中で変更がしづらいという点。制作終盤までセリフの変更、シーンの追加など広告制作ならではのオーダーが出てきます。でもアニメは1コマずつ描いていく制作方法なので、途中で変更がしづらい。最初の段階でクライアントと制作サイドの目的、共通認識を明確にしておくことが大事だと思います。

斎藤朋:僕らの仕事の一番大きなところは、そうしたことをクライアントに説明し、アニメだからこそ描ける世界観を理解していただくことです。細田守監督の『おおかみこどもの雨と雪』が公開されたとき、ハウス食品とコラボレーションしてシチューのCMを制作したことがあります。一番難しいと思ったのは、シチューのシズル感。当然のことながら、実写のようなリアルなものではありません。

映画をすでに見た人であれば、登場するキャラクターの背景や家族構成は知っている。そのことを理解した上でCMを見てもらえるので、実写では表現できない"家族"の温かさで、シチューの温かさやおいしさを感じてもらおうと考えました。そのことをクライアントには事前に丁寧に説明して、細田監督が考えるシチューのおいしさの表現に全面的に委ねていただきました。

山本:アニメを絶対的に見ない層が確実にいるので、広告の提案では人気タレントの方が広告主にとってわかりやすい、ということになりがちです。「なぜ、わざわざアニメでやるの?」という時代がこれまで長く続きましたが、『君の名は。』の影響で「最近は若い人の間ではアニメの方が響くらしい」という認識が広告主の間でも増えてきているのは確かです。一方、観客は以前からアニメに対する理解が深いので、アニメを使った広告は実は効果が出しやすいと考えています。

実写ではなく、アニメだからこそできる表現

斎藤朋:広告やプロモーションでアニメを使う場合、アニメの人気キャラクターと組むクライアントも多い一方で、「せっかくアニメをつくるんだから、アニメでしか表現できないことやろうよ」という流れになってきていると感じています。コロリドさんが手がけているCMはまさにその代表例ですね。

金苗:マクドナルドやパズル&ドラゴンズのCMでは、動きのある"コロリドらしさ"が表現されていると評価をいただいています。これはクライアントから求められていることがコロリドの得意分野とうまく合致した結果だと思います。

一方で、マルコメさんのCMでは、みそ汁の持っている温かさを通して、父と娘、母と息子、単身赴任の親子の絆を描くシリーズを続けています。コロリドらしい動きはなく、実写でも撮れるストーリーですが、アニメで表現することに意味を感じていただけているからこそ実現したのだと思います。

齋藤陽:先日コロリドさんにつくっていただいた、マクドナルドさんのアニメCMも、説明的になりやすい「クルー募集」というテーマを、爽やかにかつチャーミングに仕上げていただきました。主人公の成長や、アルバイトの現場で起こるリアルなシーンも、アニメ表現ならば誇張や省略で理想的なかたちに落とし込める。実写だとわざとらしくなってしまうであろうストーリーを描きたい場合、アニメの表現はとても相性がいいと思いました。

山本:いわゆる商品を紹介するCMにアニメが適しているかと言われたら、正直なところ難しいと思います。商品そのものを描くのであれば、やはり実写の方が強い。でもCMでアニメを使う効果の一つとして、見ている人の記憶やノスタルジーを呼び起こすようなことができるんです。実際の商品が持つシズル感を正確に表現するより、それにまつわる記憶やイメージのスイッチを押すことができる。それがアニメならではのCMでの使い方ではないかと、僕は思っています。

斎藤朋:『おそ松さん』がJRAとコラボレーションしたときは、特番やWebムービーで競馬を題材にしたストーリーを展開したことがあります。見る側にとっては、本編だから、タイアップや広告だからという意識はあまりなく、自然に楽しんでくださったかと思います。

山本:アニメは多様性があるようで、ロボットもの、萌えアニメ、腐女子ものと、ジャンルが先鋭化しています。深夜のテレビアニメでは特に、そのジャンルを好きな人に寄せて制作する傾向が強くなりました。そのためアニメスタジオの個性を少し抑えてでも、深夜アニメの視聴者が望むものに寄せる傾向にありました。

今後は、この広告の企画にはこういう個性があるから、このアニメスタジオに頼むといいという流れが生まれることを期待します。それに、「こういう使い方があるよね」という多様性は、むしろ広告のほうが発揮できるような気がするんです。

齋藤陽:広告を作る際、「今回の企画には、こういう作品をつくっているアニメスタジオがいい」と考えて、一緒につくってくださるスタジオを探します。しかし、お願いしたときに「広告をつくる時間がない」とお断りされることも多々あります。人気のスタジオほど忙しいのが、悩ましいところですね。

金苗:多くのアニメスタジオは、テレビや映画の制作が基本ですから、すでに2、3年先までスケジュールが詰まっています。その中で、「3、4カ月後にCMをつくってほしい」と言われても、そもそも制作ラインが空いてない。回せる人員がいないからだと思います。

山本:僕らツインエンジングループはCMのニーズを満たすべく、長編製作の合間にそういう依頼を受けられるような体制を整え始めました。長編映画やテレビシリーズをつくるには、ベテランのクリエイターを中心にチームを組む必要があります。人材は常に不足しているので、チャレンジしたがっている若手も長編やシリーズの中に投入されていく。当社のグループでは、ベテランでも若手でも小ユニットにして、広告などのショートフィルム的な位置づけのものも機動性を持って作れるように体制を組み始めています。

金苗:CMで話題を集めれば、アニメスタジオを知ってもらうことができる。「若手のチャンスになれば」と思うところもありますが、現場の都合だけで受けてしまうと、よい結果にならない可能性もあります。だから、そこはオーダーに対して適切に対応していかなくてはと思っています …

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